今年のカナダGPはノー・アクシデントの内にレースが終わった。
スタート時の2・3コーナーのアクシデントやブレーキトラブルによるクラッシュ、最終シケインの立ち上がりでアウトに膨らんでチャンピオンズ・ウォールに張り付くなどというシーンもなかった。
むしろ、全ドライバー燃費に最も神経を使い、リフト・アンド・コースト(直線の後半でアクセルを戻して惰性で走り燃費を節約するテクニック)を多用して何とか300kmを100Kgの燃料で走りきれるように格闘していた。
優勝したハミルトンは、練習走行中にマシンをクラッシュさせたが、予選・決勝とも完璧な走りでレースを制した。
終盤には、後続のロスベルグとの距離を測りながら、ピットから出された1周当たり50mのリフト・アンド・コーストという細かなリクエストにも難なく応える余裕を見せていた。
3位にはフェラーリのライコネンが入れるはずだったが、制御プログラムの問題からか、ヘアピンで思わぬスピンを喫し、ボッタスに先を行かれてしまった。
マシン・トラブルのために18番グリッドからスタートしたフェッテルは見事な追い上げを見せて5位でゴールした。
同じく、マシン・トラブルで15番グリッドからスタートしたマッサも見事6位入賞を果たした。
予選、決勝とも久々に良い走りを見せたマルドナドは7位に入った。
今回、マクラーレン・ホンダはPUの改良に2トークンを使い、パフォーマンス・アップを目指していたが、結果は悲惨なものだった。
新しいPUはパワー不足な上に燃費も悪かった。
その上、信頼性も低く、2台ともトラブルでリタイヤしてしまった。
もはや、強力なデータ処理能力を持つマクラーレンのリソースを活用する必要があるのではないか。
ホンダは、ハードウエアの独創性や開発力は抜きん出ているがソフトウエア・制御の開発力は劣っているように見える。
ハードウエア同様、ソフトウエアの開発力も一日にしては成らない。
今、F1は大きな岐路に立っている。
F1は地上最速であるために高性能のパワーユニットを必要とする。
F1用のパワーユニットは、資金的にも技術的にも世界でも屈指の大自動車会社でないと開発できない。
また、過去に集中的な開発を許していたために、何シーズンも勝ち続けるチームがでてしまったことから、厳しい開発規制がかけられるようになった。
空力についても新しいアイデアが出るたびに規制するようになった。
長期間一人勝ちを許すと、興行としてのF1の面白さが殺がれるとの考え方からこうしているのだろう。
しかし、レッドブルは2013年までの4年間にわたって他を圧倒していたし、2014年からはメルセデスと拮抗するチームはない。
開発規制の意味はあるのだろうか?
ドミナントなチームがあったとしてもせめてチームメイト同士が優勝を激しく争うことがあれば意味がある。
カナダGPは極端な例かもしれないが、ほとんどのドライバーがリフト・アンド・コーストを強いられ、チームメイトとのバトルよりもチームメイトの燃費を気にしながら走るようなレースになってしまっている。
今年のカナダGPではストレートでスリップに入りシケインの突っ込みでブレーキングを遅らせて抜き去るというようなシーンは見られなかった。
ここまで、燃費のウエイトが高くなってしまうとF1ではなく耐久レースだ。
次のオーストリアGPの行われるレッドブル・リンク(元A1リンク)はジル・ビルヌーブとはレイアウトが異なるが4本の直線のあるPUコースだ。
ドイツ人F1ドライバーが4人もいるのに今年はドイツGPがないので、ドイツ人ドライバーにとってはホーム・グランプリのようなものだ。
ここでは、ドライバー同士のバトルが見たい。
オーストリアGPは、1位ハミルトン、2位ロスベルグ、3位フェッテル、4位ライコネン、5位マッサ、6位ボッタス、7位リチャルド、8位ヒュルケンベルグ、9位フェルスタッペン、10位アロンソかな。
2014 ©Yukichi Otsuka, All Rights Reserved
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YUKICHI OTSUKA/大塚雄吉
学会ネット株式会社 代表
モナコGPには予期せぬ波乱が待っていた。
レース終盤、快速ルーキー、フェルスタッペンがクラッシュした。
まず、バーチャル・セフティカーが、続いて実車のセフティカーがコースに入った。
予選・決勝を通じて首位を独走していたハミルトンがスーパー・ソフトに履き替えるためにピットから呼び戻された。
この時点で、メルセデスのピットは2位・3位との差を見誤っていた。
ハミルトンがピット・アウトしてコースに戻る時にはロスベルグは前に行っており、フェッテルも鼻の差で前に出てしまった。
このためハミルトン圧勝のはずのレースが一転、ロスベルグ1位、フェッテル2位、ハミルトン3位の順で残り10周を争うことになった。
ハミルトンはリスタート後、激しくフェッテルを攻め立てたが、ここはモナコ、抜くことはできない。
結局、そのままの順位でゴールした。
昔からモナコの1勝は他のGPの3勝に値するといわれ、マシンの差があっても、ドライバーの実力によって予選で前に行くことができれば、勝つチャンスがあるといわれていた。
ワールドチャンピオンを2回獲っているハミルトンは、モナコでは1勝しかしていない。
ハミルトンが今年のモナコ優勝に懸ける意気込みは並々ならぬものがあった。
しかし、ハミルトンの努力はルーキーのクラッシュとチームの判断ミスでふいになってしまった。
今シーズン、スペインGP以外ではハミルトンの後塵を拝し続けてきたロスベルグはラッキーなモナコ3連勝目をあげることになった。
ゴールラインを横切った後、ハミルトンは海側のコーナーで一旦クルマを止めた。
怒りを沈め、気持ちの整理をしていたのだろう。
最後にパーク・フォルメに戻ってきて3位のスポットにマシン停めるとき、ノーズをボードに当てて1位より先にもって行った。
これが彼のメッセージだ。
ハミルトンは貴重なモナコの一勝を逃したが、これで今年のチャンピオンをほぼ確実にしたかもしれない。
ヘルメットを脱いだ後のハミルトンは、落胆していたが、見事な振舞を見せた。
怒りをチームにぶちまけても当然の状況なのに大人の対応をしていた。
これで、メルセデスチームは、ハミルトンのために今まで以上に万全のサポート体制をとらざるを得なくなる。
ハミルトンは最悪の不可抗力に対しても自分をコントロールできる精神性を手に入れた。
しかも、予選・レースともドライビングでロスベルグに負けたわけではない。
急にフェラーリやマクラーレン・ホンダがメルセデスより速くならない限り、ほとんど無敵状態と言える。
メルセデスがレース運営をしくじる中で、レッドブルは巧いチーム運営をした。
終盤、遅いタイヤで4位を走っていたクビアトに対して、速いタイヤで5位を走っていたリチャルドを先に行かせるよう命じ3位を狙わせたが、3位が手に入らないと分かるとクビアトを4位に戻すよう命じた。
今シーズン、マシン・トラブルに悩まされ続けてきたクビアトは、名誉あるモナコ4位の座を得てちょっぴりうれしかっただろう。
レッドブルとマクラーレン・ホンダはそれぞれモナコで少しパフォーマンスアップした。
次は、大西洋を渡ってカナダGPだ。
ジル・ビルヌーブ・サーキットは長い直線とタイトなコーナーを繋いだコースだから、最高速からのブレーキングを頻繁に強いられるれ、ブレーキとタイヤに厳しい。
このため、去年から重要性を増したのが回生ブレーキの性能とチューニングだ。
昔のF1ならブレーキだけで減速していたが、最近のF1は回生ブレーキによって減速時にプレーキの磨耗と熱エネルギーとして放出していたものを電気エネルギーに変えて蓄え、加速時に放出することによってエンジン・パワーをアシストする。
回生ブレーキと蓄えたエネルギーを制御するシステムがメカニカルブレーキと同等以上にマシンのパフォーマンスを左右する。
去年のカナダGPで、メルセデスのPUが中盤以降変調をきたして優勝を逃したのは記憶に新しい。
この次期のモントリオールはまだ涼しいが、晴れると昼間はけっこう気温が上昇する。
タイヤはスーパー・ソフトとソフトが用意されるから天気がいいとタイヤ戦略もレース結果を左右する。
ハミルトンはジル・ビルヌーブを得意としている。ホンダはついにトークンを2つ使った。
カナダGPは、1位ハミルトン、2位ロスベルグ、3位フェッテル、4位ライコネン、5位アロンソ、6位バトン、7位クビアト、8位マッサ、9位グロージャン、10位ナスルかな。
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YUKICHI OTSUKA/大塚雄吉
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