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about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

梅雨の後期に咲く花(半夏生)2016.07.05

夏至から数えて11日目あたり、エコトーンに半夏生(ハンゲショウ)の花が咲き始めると、いよいよ梅雨明けの頃あいとなる。

半夏生のフェノロジーは実に趣味深い。
6月、花序近くの葉っぱが白く化粧を始める頃、花穂が立ちあがり、7月に入ると梅雨の終わりを告げる、ちっちゃな白い花が咲き始めます。
この花には蜜はないけれど、花粉を食べにハナアブの仲間やハムシ達が訪れます。
そして、その虫たちを狩るカリバチやカマキリなどが集まってくるのです。

この日は、35℃越えの猛暑日
知り合いが「もう梅雨明けしたんじゃないのかい」と、うんざり顔でつぶやいています。

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆)」
「五月晴れの日を狙って」
よく目にするのは、キヒゲアシブトハナアブ。エコトーンに生息する虫としては最適と考え、このハナアブを狙うことにしました。
主役(主題)の半夏生の特徴である白化現象のコントラストをひときわ強調できるように、五月晴れの日を選び、背景は暗くなる場所に咲いている花をセレクト。
あとは脇役がピッタリとおさまる構図に飛び込んでくるタイミングを図ることにしました。
カメラ設定はこのことを踏まえシャッタースピード:1/400秒が最低限必要と決め、フォーカスはMF(マニュアルフォーカスに設定)。

撮影地:練馬区石神井公園

カメラ設定
Nikon D810, 絞り値:F8.0、シャッタースピード:1/400秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離105mm、フォーカスモード:MF、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。

使用ソフト
PhotoshopCC2015.5使用(Rawデータ現像)

使用機材

Nikon D810, AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED

POSTED BY:
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

タマムシ(1000年越えの輝き)2016.06.16

信じられますか!?
法隆寺の「玉虫厨子」の装飾の一部に使われている、タマムシ(正式名:ヤマトタマムシ)の輝き(構造色:外皮の多層膜構造)は、1000年以上の時を超えても経年変化(紫外線や退色、脱色)なく、極彩色を今に留めているのです。

ちなみに、
童謡『黄金虫(こがねむし)』野口雨情作詞(♪黄金虫は金持ちだ 金蔵建てた蔵建てた 飴屋で水飴買つて来た♪)はチャバネゴキブリとの説があるが、雨情の故郷・現在の北茨城市あたりではタマムシの事を黄金虫と呼んでいた事実と、「玉虫厨子」の装飾画に、消粉蒔絵の技法(金箔を水飴で練る)等々、すべてが歌詞と結びつく事などから、どうやらタマムシ説が有力であるようだが果たして?でも、甲虫目ではタマムシ科とコガネムシ科に別れているのだが、総称としてのコガネムシ科、う〜む玉虫色でややっこしい。

雨上がりの翌日
昨夜の雨で木肌が柔らかくなっただろうから、そろそろではと来てみたらグッドタイミング。小さな穴に極彩色の頭がチラチラと見え隠れしているのを目にしました。
「やっぱりいましたね!さて、君はここから出口をガリガリと食い破り(丸い写真)、自分の体が通る大きさに広げるには、まだ2〜4時間程かかりそうだね。ゆっくり出ておいで、焦ることはない私はこんな時間がたまらなく居心地がいいのだから・・・」

—-スーッと、初夏の心地よい風がシャッターボタンの指先をなめていきます。
まだかな〜

「玉虫厨子」詳しくはコチラ
http://www.sci-museum.jp/files/pdf/study/universe/2014/07/201407_16-17.pdf

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆☆)」
「誕生のクライマックスを想像しベストポジションを導き出す」
まず考えたことは、朽木を噛み砕いて出てくるのだから、タマムシの強靭な口がしっかり映り込むアングルがベストと考え、下から狙うことにしました。
そのために180度回って背景の明暗、太陽の位置などを確認します。
今回は逆光側がベストと位置を決定、次は誕生の時間の予測です。クライマックスは2〜4時間後くらいではないかと考えると、その瞬間は逆光の時間帯になりそうなのでストロボが必須と判断。これで撮影の7割がたは終わったも同然です。
上の産卵シーンは2015年6月28日撮影、残念ながらこのトチノキは切られてしまう。
下の誕生シーンは2016年6月5日撮影、切られたトチノキから3メートルほど離れたトチノキ。
ちなみに、日本には約200種のタマムシが生息しています。

撮影地:練馬区石神井公園

カメラ設定
上の産卵シーン:Canon EOS 7D Mark II、絞り値:F13.0、シャッタースピード:1/125秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離100mm、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。

下の誕生シーン:Nikon D810, 絞り値:F18.0、シャッタースピード:1/160秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離105mm、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。ストロボ

使用ソフト
PhotoshopCC2015使用(Rawデータ現像)

使用機材

Canon EOS 7D Mark II、EF100mm f/2.8 Macro USM
Nikon D810, AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED、カメラを三脚Fotopro fph-53pに装着、Speedlightを三脚:VANGUARD VEO 265CBにSpeedlight: Godox V850を斜め前方45度に装着、ストロボはワイヤレス同調:Godox Wireless Power Control Flash Trigger Set FT-16S for Godox VING V850

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

京都鴨川の納涼床通いのアオサギ2016.05.24

京都の初夏の風物詩、鴨川の納涼床に来ている。
私は美しい夕焼けと、はんなりした料理に舌鼓を打っていた。

火灯し頃、
なんとのう西の空を見上げていると、アオサギが忽然と現れ「パサッ」と通い慣れた様子で納涼床の手摺に止まった。この思いがけない情景に私は瞬時に反応、よ~く冷えた麦酒を「トン」と置き、ポケットからiPhonを取り出しベストポジションへ移動、ゆるりとシャッターボタンを押す。

——この状況、私は少々ほろ酔いで高揚気味ではあったが隣の舞妓さんはさほど驚く様子もない。
不思議に思い、お女将に問えば「このところ、よーおこしです」と笑顔であった。

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆)」
「構図を考えボタンを押すだけ」
仕事が終わりカメラを宿に置いてきたのを後悔しつつも、慌てることなくポケットからiPhone 6s Plusを取り出し、アングルを決めれば後は携帯カメラに全てお任せである。
今ドキの携帯はピッと押せば、誰でも綺麗に撮れるからビックリ。だけど構図だけは携帯任せには今の所はできません。でも・・・、そのうち構図任せなるボタンがあり、ピッと押せば「もう少し左へ移動してください、違う下手くそ!」などと携帯に叱られる日が来るかもしれませんね。

撮影地:京都鴨川カメラ設定
iPhone 6s Plus, 絞り値:F2.2、シャッタースピード:1/120秒,ISO感度設定:25、レンズ焦点距離35mm換算29mm

使用ソフト
PhotoshopCC2015.5使用(Rawデータ現像)

使用機材

iPhone 6s Plus back camera 4.15mm f/2.2

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

木漏れ日の中のギフチョウ2016.04.18

ギフチョウが見られる石砂山(いしざれやま)へは東京都心から、車なら約90分で行ける近場である。
快晴で前日は雨、気温も上がり絶好の撮影日和で張り切って出かけた。
午前中は里山でスモモの花に止まるのを待ったが何頭かにスルーされ空振り。
午後2時半頃だっただろうか、作戦変更して前回見かけた尾根辺りまで登ってみよう、と中腹まで野鳥の囀りに耳を傾けながら登ってみたけれど、ギフチョウを目にしたのは地面にいた一頭だけ「まあこの時間帯ではしょうがないか・・・」とピークまでは登らずに途中で引き返すことにした。
トボトボと登山道口近くまで降りてくると、仄暗い樹林帯にチラチラと日が差し込みタチツボスミレ?が美しく浮かび上がっていた。
もしかして、ここにギフチョウがポンと現れたりして・・・、などと妄想列車状態でありましたが。
なんと、そこに一頭のギフチョウがヒラリと舞い降りてきたのです。
嘘みたいな展開に心中小躍りですが、不思議と俯瞰で見られる自分がいて全神経を集中してスローモーションでベストポジションへ移動し張り付きました。飛び去るまでの約10秒間、抜く手も見せず300㎜のフォーカスと木漏れ日の露出補正を合わせ、カシャカシャカシャ。

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆)」
「妄想から思い描くシーンを先読みする」
二輪咲いていた手前のスミレにギフチョウが飛び乗ったので、重みて花柄がたわみ地面に翅が着いてしまいました。よく見ると、後ろ側のスミレとの間隔がその分離れてしまい、予期せぬ高低差が生じています。
問題は、この予期せぬ僅かな変化に気付けるかどうか。
ギフチョウばかりに注視していたならば、スミレへの注意が散漫になり、後ろ側のスミレがフレームアウトしかねません。もし、背後のスミレの花がなかったら、華やかなスプリング・エフェメラル(春の妖精)物語をうまく伝えられなかったのではないでしょうか。

木漏れ日は以外と露出補正が難しいので、急な展開時には慌ててしまい露出補正を忘れがちです。
そこで、日陰や木漏れ日下でのテスト撮影をあらかじめ済ませ露出補正値を割り出しておく。
備えを怠ると結果は露出オーバー画像の大量生産となってしまいかねません。
チャンスは一回こっきり、予期する変化に常に備えるべし。

撮影地:神奈川県相模原市にある石砂山(いしざれやま)

カメラ設定
EOS 7D Mark II, 絞り値:F9.0、シャッタースピード:1/640秒,ISO感度設定:400、レンズ焦点距離35mm換算480mm、露出モード:絞り優先オート、露出補正:−1.67、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:ポートレート、Raw。

使用ソフト
PhotoshopCC2015使用(Rawデータ現像)

使用機材

EOS 7D Mark II, EF300mm F4L IS USM

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

岐阜で桜とギフチョウ2016.03.28

仕事を終え、岐阜駅に向かうタクシーの車中。
まだ桜の開花には早すぎて諦めかけていたが、この時期を逃すとまた一年待たなければならない。
「運転手さん、今年はギフチョウをご覧になられましたか?」「何ですか!?チョウですか?もう半世紀以上こちらに住んでいますが、まだ一度も見たことがありません」淡い期待は・・・。
すかさず、名和昆虫博物館へ電話。
「ギフチョウいますか?」「いますよ〜!」と弾んだ声が返ってきた。行き先変更、ピュッと到着。運転手さんも見たいというので、二人分の入場券を買う。

「どこにいますか?」
「あそこの奥の方です、自由に撮影していただいて大丈夫ですよ」
60センチ程の水槽の中に5頭いて、本能とはいえこの中で蜜を吸い、交尾して卵を産むそうである。
説明を聞きながら、♂のギフチョウが彼岸桜の蜜を吸いに上の方にバタバタと移動する場面を撮影することにした。以前、金沢辺りのカタクリの吸蜜シーンは何度か撮影したけれど、岐阜で桜とギフチョウを撮影するのが夢でもあったのだ。夢は願い続ければいつか叶うもので、とうとう昆虫学者の名和 靖(ギフチョウの名付け親)の名和昆虫博物館で桜とギフチョウにタイミングよく出会えたのだ。

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆☆)」
「博物館の蛍光灯のフリッカーの有無を考察する」
動きが無いなら、すごく優しい撮影ですが、羽ばたいているシーンを狙ったので撮影難易度が数段上がりました。条件が手持ち撮影で、背景をぼかしギフチョウの模様を分からせることとなると、ピントとシャッタースピードがとてもシビアで(ギフチョウが上へ上へと羽ばたいて動いてしまうので)、素早い状況判断と決断が求められる撮影なのです。

覚えておくべきポイント
ストロボが使えない場所。
名和昆虫博物館の主光源は蛍光灯。ラッキーな事に、私たちのためにギフチョウの入れられている水槽周りの電球を6個ほど急遽点灯したとのこと。嬉しいではないか、温度が上がると動きが活発になる。さらに、電球ならばフリッカー現象を考慮する必要はないのでシャッタースピードを1/250s、絞りは開放の2.8f、感度はISO800に設定したのです。
もし、主電源の蛍光灯だけだったならばフリッカー現象が起きるので(静岡県を境に西日本は60Hz、東日本は50㎐)岐阜県なのでシャッタースピードを1/120s以下(くたびれた蛍光灯があるので理想は1/60s)にしなければならない制約があるので高感度に頼ることはできない、とこのような事を瞬時に判断しなければなりません。(フリッカー低減機能がついた機種「Nikon D810」ならば、悩み無用ですが・・・)
この画では左翅がギリギリのブレ加減になっているのがお分かりだろうか?
これ以上ブラしてしまうとギフチョウの両翅の特徴的な模様が消えてしまう恐れがあると判断したのです。

撮影地:岐阜県岐阜市 名和昆虫博物館

カメラ設定
Nikon D810, 絞り値:F2.8、シャッタースピード:1/250秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離70mm、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。

使用ソフト
PhotoshopCC2015使用(Rawデータ現像)

使用機材

Nikon D810, AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED

POSTED BY:
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家