- TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
- 1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。
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クビワギングチの狩り2016.07.12
昨夜、シミュレーションを済ませておいたので機材のチョイスは完璧である。
しかし、この日はやけに蒸し暑いので、重たい機材を携えて出かける事に少しばかり躊躇していた。だが、晴天ならばハチに出会える確率が上がるので、サングラスをかけオープンカーで出撃した。(アシスト自転車)
クソ暑いのに、汗かきかき、コギコギ。狙いは蛾類成虫を主に狩るクビワギングチである。
先客のT氏は、すでに下段の方の巣口にセッティングを済ませ、私と入れ替わるように背後の「ツミの餌渡し」の方に移動された。これ幸いと、T氏よりも上段の巣口にセット。程なくグッドタイミングで自分の体よりも大きなハマキガ?を狩った、クビワギングチが上段の方に戻ってきたのです。
「バシャ!バシャ!」
NIKON D810がハイスピードシンクロ(1/8000s)で唸ります。
このシャッター音に気づき、背後からT氏が大慌てで駆け戻ってこられる気配が・・・。
「ワオ〜獲物がデカイ!」
この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆☆)」
「裏技」
クビワギングチは体長約8mm。狩る獲物は、ヤガ、ヒメハマキ、ハマキガ、ツトガなどであるらしいが、生態は未だよく分かっていないらしい。このギングチはトチノキの朽木に穴を開け営巣していた。ちぃちゃくて素早い飛翔で、狩りから戻ると躊躇なく、ピョンと巣に飛び込む。被写界深度は数ミリで、ジャスピンはまぐれの要素を含む難易度である。
そこで、「裏技」仕掛けが必要となる。巣口にティッシュなどを詰めて、ピョンと簡単に飛び込めなくする。しめしめ、これで複数回のトライが繰り返されることになる。
ここからが肝ポイント。前もって置きピンの位置決めを済ませておくが、その方法はいたって簡単。侵入角度を予測し飛翔方向入り口に、ピント合わせ用の手頃な物を潜入角度に合わせて置く。この状態を維持しつつ、好みの角度位置にカメラをセットすれば置きピン完了。さらに、愛嬌ある顔を狙って少しだけ前方から狙う事にしたので、これで、ジャスピンの難易度が数段上がる事となる。何故ならば、侵入角度がカメラと水平ではなくなるので、ジャスピンは交差する所の1点のみ。すなわち“神の領域”まぐれとなる。
翅ブレの演出は、ストロボの出力を2段ほど下げ、M1/32(閃光時間1/9000s)セット。できれば出力をもっと下げて、M1/128(閃光時間1/20000s)ブレ幅を小さくしたいところだが、ニッシンMG8000 マシンガンストロボはハイスピードシンクロ時(シャッタースピード1/8000s)では設計上、たとえマニュアルであってもM1/128に設定できない仕様なので(シャッタースピード1/320s以下ならば出力M1/128も可)、仕方なくシャッタースピード1/8000sで出力をM1/32とした。さらに、背景を真黒に落としたくなかったので、ISO感度を1250にし背景の緑を取り入れる事とした。
さて、羽ばたき回数をミツバチに置き換えて推測してみよう。1秒間1往復約250回、片道は計算上約500回となるが、クビワギングチは狩バチで大きな獲物も運ばなければならない、さらにミツバチよりも小さい。という事は物理的に羽ばたき回数はもっと多くなると考えられる。したがって、完全に翅の動きを止めるには閃光時間1/50000s以上が必要、と単純計算ではなるけれど、羽ばたきの片道の中間地点ではもっと早くなるはずで、シミュレーションでは、1/100000s前後が必要となる。これ以下だと、閃光時間内に翅の移動幅が大きくなりブレが増すと言う理屈です。
また、晴天下でシャッタースピード1/320s以下ならば、中間地点に限って、閃光時間内にかなり移動するので、翅の形跡はほとんど写らない計算になるのです。ただし、撮影環境が暗所で露出アンダー2ぐらいならば、閃光時間優先で最小の出力、M1/128にセット出来るので、シャッタースピード1/320s又は1/250 s(カメラメーカーにより異なる)以下は、たとえ1秒だろうが、スローシャッターによるブレを考慮する必要はほとんど無いと考えても良いでしょう。
ちなみに、
閃光最速のひとつは、これか?ニコン SB-700は約1/40000秒(M1/128) メーカー発表値。
撮影地:練馬区石神井公園
カメラ設定
Nikon D810, 絞り値:F10.0、シャッタースピード:1/8000秒,ISO感度設定:1250、レンズ焦点距離105mm、ファーカスモード:MF、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。
使用ソフト
PhotoshopCC2015.5使用(Rawデータ現像+トリミング)
使用機材
Nikon D810, AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED、スピードライト:NISSINマシンガンストロボ「MG8000」1灯使用、外部電源にパワーパック P5.8使用、Yongnuo製 YN-622N ニコン専用 i-TTL対応 ラジオスレーブ/ワイヤレスフラッシュトリガー使用、カメラ用三脚:GITZOマウンテニア2型4段GT2542、スピードライト用三脚:VANGUARD VEO 265CB、ピンセットとティッシュ(巣の入り口を塞ぐために使用)
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写真家
梅雨の後期に咲く花(半夏生)2016.07.05
夏至から数えて11日目あたり、エコトーンに半夏生(ハンゲショウ)の花が咲き始めると、いよいよ梅雨明けの頃あいとなる。
半夏生のフェノロジーは実に趣味深い。
6月、花序近くの葉っぱが白く化粧を始める頃、花穂が立ちあがり、7月に入ると梅雨の終わりを告げる、ちっちゃな白い花が咲き始めます。
この花には蜜はないけれど、花粉を食べにハナアブの仲間やハムシ達が訪れます。
そして、その虫たちを狩るカリバチやカマキリなどが集まってくるのです。
この日は、35℃越えの猛暑日
知り合いが「もう梅雨明けしたんじゃないのかい」と、うんざり顔でつぶやいています。
この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆)」
「五月晴れの日を狙って」
よく目にするのは、キヒゲアシブトハナアブ。エコトーンに生息する虫としては最適と考え、このハナアブを狙うことにしました。
主役(主題)の半夏生の特徴である白化現象のコントラストをひときわ強調できるように、五月晴れの日を選び、背景は暗くなる場所に咲いている花をセレクト。
あとは脇役がピッタリとおさまる構図に飛び込んでくるタイミングを図ることにしました。
カメラ設定はこのことを踏まえシャッタースピード:1/400秒が最低限必要と決め、フォーカスはMF(マニュアルフォーカスに設定)。
撮影地:練馬区石神井公園
カメラ設定
Nikon D810, 絞り値:F8.0、シャッタースピード:1/400秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離105mm、フォーカスモード:MF、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。
使用ソフト
PhotoshopCC2015.5使用(Rawデータ現像)
使用機材
Nikon D810, AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED
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写真家
タマムシ(1000年越えの輝き)2016.06.16
信じられますか!?
法隆寺の「玉虫厨子」の装飾の一部に使われている、タマムシ(正式名:ヤマトタマムシ)の輝き(構造色:外皮の多層膜構造)は、1000年以上の時を超えても経年変化(紫外線や退色、脱色)なく、極彩色を今に留めているのです。
ちなみに、
童謡『黄金虫(こがねむし)』野口雨情作詞(♪黄金虫は金持ちだ 金蔵建てた蔵建てた 飴屋で水飴買つて来た♪)はチャバネゴキブリとの説があるが、雨情の故郷・現在の北茨城市あたりではタマムシの事を黄金虫と呼んでいた事実と、「玉虫厨子」の装飾画に、消粉蒔絵の技法(金箔を水飴で練る)等々、すべてが歌詞と結びつく事などから、どうやらタマムシ説が有力であるようだが果たして?でも、甲虫目ではタマムシ科とコガネムシ科に別れているのだが、総称としてのコガネムシ科、う〜む玉虫色でややっこしい。
雨上がりの翌日
昨夜の雨で木肌が柔らかくなっただろうから、そろそろではと来てみたらグッドタイミング。小さな穴に極彩色の頭がチラチラと見え隠れしているのを目にしました。
「やっぱりいましたね!さて、君はここから出口をガリガリと食い破り(丸い写真)、自分の体が通る大きさに広げるには、まだ2〜4時間程かかりそうだね。ゆっくり出ておいで、焦ることはない私はこんな時間がたまらなく居心地がいいのだから・・・」
—-スーッと、初夏の心地よい風がシャッターボタンの指先をなめていきます。
まだかな〜
「玉虫厨子」詳しくはコチラ
http://www.sci-museum.jp/files/pdf/study/universe/2014/07/201407_16-17.pdf
この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆☆)」
「誕生のクライマックスを想像しベストポジションを導き出す」
まず考えたことは、朽木を噛み砕いて出てくるのだから、タマムシの強靭な口がしっかり映り込むアングルがベストと考え、下から狙うことにしました。
そのために180度回って背景の明暗、太陽の位置などを確認します。
今回は逆光側がベストと位置を決定、次は誕生の時間の予測です。クライマックスは2〜4時間後くらいではないかと考えると、その瞬間は逆光の時間帯になりそうなのでストロボが必須と判断。これで撮影の7割がたは終わったも同然です。
上の産卵シーンは2015年6月28日撮影、残念ながらこのトチノキは切られてしまう。
下の誕生シーンは2016年6月5日撮影、切られたトチノキから3メートルほど離れたトチノキ。
ちなみに、日本には約200種のタマムシが生息しています。
撮影地:練馬区石神井公園
カメラ設定
上の産卵シーン:Canon EOS 7D Mark II、絞り値:F13.0、シャッタースピード:1/125秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離100mm、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。
下の誕生シーン:Nikon D810, 絞り値:F18.0、シャッタースピード:1/160秒,ISO感度設定:800、レンズ焦点距離105mm、露出モード:マニュアル、露出補正:+0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw。ストロボ
使用ソフト
PhotoshopCC2015使用(Rawデータ現像)
使用機材
Canon EOS 7D Mark II、EF100mm f/2.8 Macro USM
Nikon D810, AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED、カメラを三脚Fotopro fph-53pに装着、Speedlightを三脚:VANGUARD VEO 265CBにSpeedlight: Godox V850を斜め前方45度に装着、ストロボはワイヤレス同調:Godox Wireless Power Control Flash Trigger Set FT-16S for Godox VING V850
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
京都鴨川の納涼床通いのアオサギ2016.05.24
京都の初夏の風物詩、鴨川の納涼床に来ている。
私は美しい夕焼けと、はんなりした料理に舌鼓を打っていた。
火灯し頃、
なんとのう西の空を見上げていると、アオサギが忽然と現れ「パサッ」と通い慣れた様子で納涼床の手摺に止まった。この思いがけない情景に私は瞬時に反応、よ~く冷えた麦酒を「トン」と置き、ポケットからiPhonを取り出しベストポジションへ移動、ゆるりとシャッターボタンを押す。
——この状況、私は少々ほろ酔いで高揚気味ではあったが隣の舞妓さんはさほど驚く様子もない。
不思議に思い、お女将に問えば「このところ、よーおこしです」と笑顔であった。
この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆)」
「構図を考えボタンを押すだけ」
仕事が終わりカメラを宿に置いてきたのを後悔しつつも、慌てることなくポケットからiPhone 6s Plusを取り出し、アングルを決めれば後は携帯カメラに全てお任せである。
今ドキの携帯はピッと押せば、誰でも綺麗に撮れるからビックリ。だけど構図だけは携帯任せには今の所はできません。でも・・・、そのうち構図任せなるボタンがあり、ピッと押せば「もう少し左へ移動してください、違う下手くそ!」などと携帯に叱られる日が来るかもしれませんね。
撮影地:京都鴨川カメラ設定
iPhone 6s Plus, 絞り値:F2.2、シャッタースピード:1/120秒,ISO感度設定:25、レンズ焦点距離35mm換算29mm
使用ソフト
PhotoshopCC2015.5使用(Rawデータ現像)
使用機材
iPhone 6s Plus back camera 4.15mm f/2.2
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写真家
木漏れ日の中のギフチョウ2016.04.18
ギフチョウが見られる石砂山(いしざれやま)へは東京都心から、車なら約90分で行ける近場である。
快晴で前日は雨、気温も上がり絶好の撮影日和で張り切って出かけた。
午前中は里山でスモモの花に止まるのを待ったが何頭かにスルーされ空振り。
午後2時半頃だっただろうか、作戦変更して前回見かけた尾根辺りまで登ってみよう、と中腹まで野鳥の囀りに耳を傾けながら登ってみたけれど、ギフチョウを目にしたのは地面にいた一頭だけ「まあこの時間帯ではしょうがないか・・・」とピークまでは登らずに途中で引き返すことにした。
トボトボと登山道口近くまで降りてくると、仄暗い樹林帯にチラチラと日が差し込みタチツボスミレ?が美しく浮かび上がっていた。
もしかして、ここにギフチョウがポンと現れたりして・・・、などと妄想列車状態でありましたが。
なんと、そこに一頭のギフチョウがヒラリと舞い降りてきたのです。
嘘みたいな展開に心中小躍りですが、不思議と俯瞰で見られる自分がいて全神経を集中してスローモーションでベストポジションへ移動し張り付きました。飛び去るまでの約10秒間、抜く手も見せず300㎜のフォーカスと木漏れ日の露出補正を合わせ、カシャカシャカシャ。
この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆)」
「妄想から思い描くシーンを先読みする」
二輪咲いていた手前のスミレにギフチョウが飛び乗ったので、重みて花柄がたわみ地面に翅が着いてしまいました。よく見ると、後ろ側のスミレとの間隔がその分離れてしまい、予期せぬ高低差が生じています。
問題は、この予期せぬ僅かな変化に気付けるかどうか。
ギフチョウばかりに注視していたならば、スミレへの注意が散漫になり、後ろ側のスミレがフレームアウトしかねません。もし、背後のスミレの花がなかったら、華やかなスプリング・エフェメラル(春の妖精)物語をうまく伝えられなかったのではないでしょうか。
木漏れ日は以外と露出補正が難しいので、急な展開時には慌ててしまい露出補正を忘れがちです。
そこで、日陰や木漏れ日下でのテスト撮影をあらかじめ済ませ露出補正値を割り出しておく。
備えを怠ると結果は露出オーバー画像の大量生産となってしまいかねません。
チャンスは一回こっきり、予期する変化に常に備えるべし。
撮影地:神奈川県相模原市にある石砂山(いしざれやま)
カメラ設定
EOS 7D Mark II, 絞り値:F9.0、シャッタースピード:1/640秒,ISO感度設定:400、レンズ焦点距離35mm換算480mm、露出モード:絞り優先オート、露出補正:−1.67、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:ポートレート、Raw。
使用ソフト
PhotoshopCC2015使用(Rawデータ現像)
使用機材
EOS 7D Mark II, EF300mm F4L IS USM
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
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