YOUCHOOSE

about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

ハスの花に止まったカワセミ2017.08.14

キュウリの馬、ナスの牛・・・
2005年、カワセミにどっぷり嵌ってしまった。撮影は一見簡単そうでこれがなかなか難しい。ああでもないこうでもないと通い続け、コツをある程度つかめかけた頃、知り合いから「こんな写真が撮れる場所もあるよ」、とハスの花に止まった写真を見せられた。それは、まるで仏画のようで釘付けにされてしまった。だがその撮影場所、くちばしが黄色い駆け出し者にはなかなか教えてもらえないのである。まるで、餌を目の前に「待て!」である。鼻息荒いのだから、後は推して知るべし。

余談
この年、女性編集者と車の中で鳥の話になり、「私はまだ駆け出しですから・・・」と話すと、クスッと笑われ『いいですね、その世界では西村さんは駆け出しなのですね」。

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆☆)」
花の終わりまで通い続けたのだが、いやはや一筋縄ではいかないのである。カメラマンがうじゃうじゃいるので場所確保が難しい。そしてマナーの悪い御仁が肝心な場面でカメラの前に出て撮影の邪魔をする、隣では怒鳴り合いが始まる、終いには、おばさんの「何撮ってるんですか?」などなど、嫌になるほど色々と起こります。そんな雑音にも負けないタフさが必要なので、撮影難易度「星☆☆☆」です。
主役を引き立てる、美しいハスの花が見えるアングルに三脚をセット。シャッターチャンスをひたすら待ち受け、カワセミが首を前に突き出した瞬間を狙って撮影しました。この画は2006年に撮影、残念ながら菊名池では今は見られないかな?

撮影地
神奈川県横浜市港北区菊名 菊名池

カメラ設定
NIKON D2X, レンズ:Nikon ED NIKKOR 500mm 1:4P、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、Raw、

使用ソフト
PhotoshopCC2017.0.0使用(Rawデータ現像)

使用機材
NIKON D2X、Nikon ED NIKKOR 500mm 1:4P、三脚:SLIK GRAND PRO CF-3 SP、雲台:SLIK TELE BAALANCE 6

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

ヒトスジシマカ2017.07.14

温風至る7月
吹き出す汗、左手にタオル、右手にはカメラ。倒木で狩バチを観察していた。——案の定「プ〜〜ン」虫好きでもメスの蚊ほど嫌な存在は無い。叩き潰そうと羽音を辿ると、なんだか様子が・・・? 
——程なくして苔の上に止まったけれど、チョット小さすぎて何が何だか良くわからない。急ぎマクロレンズで覗くとヒトスジシマカの交尾が確認出来た。駆除対象の蚊などにレンズを向けることなどないれど、命のバトンを目の当たりにして、ふと蚊の存在意義を考えてしまったのです。

ヒトスジシマカ(蚊の起源は約1億5000万年頃のジュラ紀)
一般にはヤブ蚊と呼ばれ、国内での成虫の出現期は概ね5月〜11月、年に7〜8世代を繰り返す。デング熱などの伝染病を媒介する。2014年、東京都心の代々木公園で大騒ぎになったのは記憶に新しい。
驚くことに、危険生物による死亡者数ランキングではダントツの1位で、世界では年間725.000人程が亡くなっている。体長は約4.5mm。蚊のエネルギー源は糖分でオスもメスも主に樹液や花の蜜を餌とするが、メスだけが繁殖期に多くの栄養を必要とし吸血する。オスは交尾目的で、メスが吸血に現れる人体に共に飛来するが、血を吸うことはない。意外な事に気温35℃を越えると涼しい所に潜み、活動を休止してしまう。

蚊の存在意義とは?
植物のポリネーター。カカオの花は小さく、蚊の一種ヌカカ(糠粒ほどの小さな蚊)が撲滅すると世界からチョコレートが消える。
ボウフラは水中の有機物を分解し、バクテリアなどを食べてくれる。
成虫は、他生物の蛙、魚、鳥たちの餌になる事などで食物連鎖の一翼を担っている。

参考文献
もしこの世から「蚊」がいなくなったら?
http://gigazine.net/news/20141001-world-without-mosquitoes/

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆)」
「小さな変様に反応する」
冒頭で述べたように「なにか様子がおかしい」と感じ、マクロレンズで撮影確認すると、滅多に見れない交尾中でした。まだ一例しか確認できていないので滅多な事は言えませんが、色々な目撃情報を調べると空中交尾をすると記されていたりします。しかしこの時は苔の上に着地。雌雄はオスが下でメスが上です。カメラブレに強いオリンパスですが、とても小さな被写体なのでカメラブレには細心の注意が必要です。
撮影地
東京都西東京市 東大演習林

カメラ設定
OLYMPUSのOM-D E-M1 Mark II, 絞り値:F8.0、シャッタースピード:1/250秒,ISO感度設定:1250、レンズ焦点距離120mm、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:Natural,Raw

使用ソフト
PhotoshopCC2017.0.0使用(Rawデータ現像)

使用機材
OLYMPUSのOM-D E-M1 Mark II, OLYMPUS M.60mm F2.8 Macro

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

共進化(イヌビワとイヌビワコバチ)2017.06.12

五月晴れ
“あなたの車はリコール対象車です”と以前住んでいた善福寺のディーラーから知らせが届いていた。
—–手続きを済ませ、通い慣れた善福寺公園に立ち寄った。ここには誠に興味深いイヌビワがあるのだ。

複雑難解なイヌビワの生き残り戦略
イヌビワはビワの仲間ではなく、イチジクの仲間(Ficus属)。花期は4〜5月頃、花嚢(実のように見える)の大きさは約2cm。雌雄異株で、イチジクは漢語で「無花果」。花が咲かないのではなく、花は花嚢(かのう)の袋の中で咲く、隠頭花序だから表面的には見る事はできない。ゆえに、ハナバチや蝶などは花が咲いている事を知る由がないし、風媒花もしかり。

種子植物のイヌビワは、ほかの花と少し変わっている。
雄株の花嚢の中には雄花と虫えい花(不稔性の雌花=やがてイヌビワコバチの揺りかごになる子房)が混在。ほとんどの子房はイヌビワコバチに寄生され幼虫の餌となるので、雄株の花嚢には種子が育たないのです。雄株の花嚢はイヌビワコバチのためにアパートとして存在し、そのアパートの家賃は花粉を運ぶことで支払う、と例えればいいでしょうか。でも、なかには家賃を支払わない輩が入居したりします。その時には、部屋の水道、電気などのライフラインを止めるように、花嚢への栄養を遮断して花嚢を枯らす制裁をとるそうです。雄株の花嚢のゆりかごの中で育ったイヌビワコバチは、オスが一足早く蛹から羽化し(オスには羽はないけれど羽化という。孵化ではありません)子房から出て、羽化前のメスの子房に穴を開け交尾します。オスは生まれた雄株の花嚢の中で一度も外に出る事なく、交尾を済ませると健気にもメスのための脱出口を開けて、短い一生を終えるのです。オスが花嚢の鱗片を開けると、雄花の花粉が一斉に鱗片の入り口近くで放出され、交尾を済ませたメスは、花粉を付けて若い花嚢を探しに外に飛び出します。

いっぽう、雌株の花嚢の中には、雌花だけが咲きその柱頭は雄株の柱頭よりも長いので、イヌビワコバチの産卵管が胚珠まで届かないので産卵ができません。焦った?メスは花嚢の中で動きまわり、雌しべに触れて授粉のミッションを果たし短い一生を花嚢の中で終えます。

つまり、最初に雄株の花嚢に入れば子孫が残せ、雌株の花嚢に入ればイヌビワとの約束を果たし、種子が出来るシナリオになっているのです。

以前公開した「イチジクの花とコバチ」2012/9/28はコチラ
http://youchoose.camelstudio.jp/choosers/t_nishimura/2468.html

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆☆)」
「生態を理解し想像して、機材を準備」
被写体の寄生蜂がゴミみたいに小さいので、老眼鏡をかけて観察。幸運にも、イヌビワの雄花にイヌビワコバチ(体長2mm前後)のメスが、鱗片口から潜り込む瞬間に2回ほど立ち会えました。そして、当たり前のようにイチジクコバチを宿主とする、イヌビワオナガコバチ(体長2mm前後:産卵管含まず)が沢山いて、あちこちで産卵を始めていた。楽しく観察を続けると、その先に想定外の事が起きたのです。テラニシシリアゲアリ(体長3mm前後)が現れ、いきなりイヌビワオナガコバチを襲ったのです。想定外に驚きましたが、その後も狩りの場面を3回ほど目撃。急いで連写に強いストロボ(Nissin i40)に付け替え、ストロボをマニュアルに設定し、出力1/64に絞りトライしました。「生態を理解して想像して、機材を準備」して撮影に臨めば、想定外にも慌てることなどありませんね。

撮影地:東京都杉並区 善福寺公園

カメラ設定
OLYMPUSのOM-D E-M1 Mark II, レンズ:OLYMPUS M.30mmと60mm F2.8 Macro、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:Natural,Raw、ストロボ発光, 強制発光モード。

使用ソフト
PhotoshopCC2017.0.0使用(Rawデータ現像)

使用機材
OLYMPUSのOM-D E-M1 Mark II, M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro、OLYMPUS M.60mm F2.8 Macro、
ストロボ:Metzメカブリッツ15MS-1 digital 、Nissin i40,コマンダーとしてFL-LM3使用

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

朽ちかけた一本のカエデと蜂2017.05.19

一本の朽ちかけた樹がある。
このカエデの半分は、クロヒラアシキバチとミダレアミタケに侵食されており4年ほど前から朽ちかけ始めていた。キバチは胎内にミダレアミタケ菌を蓄えていて、産卵時に菌糸も一緒に植え付け、白色腐朽菌のリグニン分解酵素で木を分解してもらうなど、共進化の関係にある。

さて、今回の主役「クロヒラアシキバチ」の事を少々、私の独断と偏見で解説しよう。
この蜂は産卵管を、毒針から木を枯らす毒腺へと進化させました。人間界ではこれらの種を、木を枯らす害虫として嫌っていますが、でも樹を枯らす事で、森の再生の一翼を担っているのです。その仕組はこうだ、植物に寄生するキバチは自ら枯れさせた樹の中に、産卵と同時にミダレアミタケ菌を植え付け、その材やカビ(キノコもカビも同類)が幼虫の餌となる。しかし栄養価の乏しい材やカビを食べていては成長が遅いので、そこにつけ込んだのが卵に寄生する寄生蜂なので。卵に寄生すれば栄養価が高く成長が早いので、キバチよりも先んじて主導権を握れるのです。先に生まれ出た寄生蜂は本能に導かれ、誕生したばかりのメスと交尾。命のバトンを託されたメスはクロヒラアシキバチの卵に寄生するという図式なのです。そこには、決して一種だけが繁栄できないように、絶妙なバランスが存在するのです。この画のカエデだけでも、交尾、産卵、寄生を4年ほど繰り広げた事になるのだから、生態系のバランスの見事さには驚くばかりです。

寄生蜂の種は多く、植物の葉や材に、卵に、蛹や幼虫などに寄生するなど多種多様です。
観察した結果、5月に確認できた寄生蜂はクロヒラアシキバチの他に、エゾオナガバチ、ニホンヒラタタマバチ、ヒメコンボウヤセバチ、オオコンボウヤセバチなど5種ほどでした。

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆☆)」
「生態の記録とキャプション」
1)ニホンヒラタタマバチの♂が、脱出口で♀の誕生のタイミングを触覚で探っている。
  絞り値:F6.3、シャッタースピード:1/160秒,ISO感度設定:1600
2)出てきた♀に素早く飛び乗り交尾。
  絞り値:F9.0、シャッタースピード:1/160秒,ISO感度設定:200
3)エゾオナガバチは長〜い産卵管を差し込み、クロヒラアシキバチの卵に産卵。
  絞り値:F7.1、シャッタースピード:1/40秒,ISO感度設定:1250
4)クロヒラアシキバチの交尾。
  絞り値:F8.0、シャッタースピード:1/40秒,ISO感度設定:1250
5)クロヒラアシキバチの産卵菅の場所を背後からじっと見つめるニホンヒラタタマバチ
  絞り値:F7.1、シャッタースピード:1/6秒-0.7,ISO感度設定:1250
6)ニホンヒラタタマバチの♀に狂ったように群がる♂達。
  絞り値:F7.1、シャッタースピード:1/40秒,ISO感度設定:1250
7)ニホンヒラタタマバチの産卵。半透明の三角形の産卵管が見える。
絞り値:F9.0、シャッタースピード:1/200秒,ISO感度設定:1250

撮影地:東京都西東京市 東大演習林(立ち入り制限区域内にあり一般人立ち入り禁止)

カメラ設定
OLYMPUSのOM-D E-M1 Mark II, レンズ:OLYMPUS M.60mm F2.8 Macro、焦点距離60mm、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:Natural,Raw、ストロボ発光, 強制発光モード

使用ソフト
PhotoshopCC2017.0.0使用(Rawデータ現像)

使用機材
OLYMPUSのOM-D E-M1 Mark II, OLYMPUS M.60mm F2.8 Macro、
ストロボ:Metzメカブリッツ15MS-1 digital 、Nissin i40,コマンダーとしてFL-LM3使用

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

金沢の楊貴妃2017.05.01

嬉しいことに、兼六園で仕事が終わり、その場で解散となった。
速攻で帰るほど野暮ではない、のんびりと桜を愛でることにした。入り口で頂いたガイドには、日本で一番花弁の多い、とても珍しい「兼六園菊桜」があると記してある・・・。

まだ見ぬ、お菊さんにやっとたどり着けたのだが、残念ながら未だ固い蕾の状態であった。口おしいが仕方ない、またの楽しみとす。次に、花名に惹かれてサトザクラの一種「楊貴妃」に会いに行く。名前に違わず、麗しく美しい。茶屋の女将の話では「咲きましたね〜、朝方はまだ咲いていなかったのですよ」まさに最高のタイミングに来た事になる。恥じらうかのように咲き始めた「楊貴妃」を見つめてていると・・・。

「ん!」 

この時の撮影技法「撮影難易度3星表記(☆)」
「視点をかえて見る」 
妖艶な八重咲きの桜「楊貴妃」である。ただ、美しいと思う反面、何か他にポイントはないものかと思考を巡らせる。すると、チョットだけ視点を変えて見ると、閃き!「おっ!ハート形のブーケ」。あとは流れに任せてトライするだけ。ふと隣に目をやるとスマホかざす若い女性達。「これハート形ですよ」と指差すと「キャー、カワイイ!」。羨ましい、男の感情の振り子はそこまでは大きく振れてくれないのだ・・・。これは、脳科学で言うところの、男性は「目的脳」、女性は「共感脳」の違いから来ているのだろうか?

そこで、爺いも「キャー、カワイイ!」と呟きつつ・・・カシャリ。
撮影地:石川県金沢市 兼六園

カメラ設定
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II, 絞り値:F4.0、シャッタースピード:1/320秒,ISO感度設定: 200、レンズ焦点距離172mm、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:Natural,Raw

使用ソフト
PhotoshopCC2017.0.0使用(Rawデータ現像)

使用機材
OLYMPUS OM-D E-M1 Mark II, OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家