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about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

忘れ雪のスプリング・エフェメラル2010.05.21

4月16日、朝から冷たい雨が降り続いている。
夜7時過ぎ、麻布十番の取材先へ向かうカーラジオから耳を疑うようなアナウンスが聞こえてきた。
「都心ではこれから雪に変わるかもしれません・・・」。
もしも都心で雪が降ることがあれば41年振りの遅い雪であるという。
ゆっくり動く車のワイパーをぼんやりと眺めながら、「そういえば、昨日まで取材に行っていた沖縄もこの時期にしては少し肌寒かったよな・・・」と、独り言を呟きながら取材先へ向かう。

真夜中の3時過ぎ。
急ぎ仕事の画像処理を終えると、「・・・もしかして」と、カーテン越しに窓の外を見渡す。
雪!それも41年振りの遅い雪が降っている。
この季節はずれの「忘れ雪」にもはや心穏やかではいられないけれど、ここはひとまず眠らねばと急ぎベッドに潜り込む「この雪の中、諸喝采の花が咲き乱れたあの場所のツマキチョウたちは今頃どうしているのだろう・・・か・z・・zzz」。

朝6時、バネ仕掛けのように跳ね起きる。
ニコンD300にVR18~105 mmのズームレンズをもどかしげに装着する。
忘れ雪、寒さに耐えるツマキチョウの一瞬の輝きを見逃してなるものかとドタバタと長靴に足を突っ込み転がるように「忘れ雪のスプリング・エフェメラル」にあいに行く。

ツマキチョウ(チョウ目・シロキチョウ科)
♂は翅を開けると前翅表面の先端が橙色のとてもお洒落な配色をしています。
♀は前翅表面の先端はかすかな黒い模様と白地の少し渋めの色合いです。後翅裏は写真のように雌雄とも迷彩色の編目模様になっています。
年一回、春先に(3月から5月)見られることから春の妖精「スプリング・エフェメラル」(春の儚い命などの意)とも呼ばれています。

この時の撮影技法
雪の重みで倒れた諸喝采の花を注意深く見ていくと、ほどなく目的のツマキチョウを見つけることが出来ました。
今回のキーポイントは、雪景色なのに冬ではなく春「忘れ雪」の季節感をいかに表現できるか。
雪が雨に変わり、傘と長靴そしてビニールシートを準備した。
また、この環境下ではレンズ交換は極力避けたかったのでニコンD300にVR18~105 mmのズームレンズをチョイス。
雨でぬかるんだ地面にシートを敷き、左手に傘をさし腹這い状態で泥だらけになりながら撮影した図である。
傍目には滑稽このうえなしである。
このケース、アングルファインダーを使ってもよいのだが何故だか臨場感に欠けるように思え、近頃は滅多に使わなくなってしまった。
理由は今起きていることに対し同じ目線で対峙したいからである。
このように苦労して撮影した写真には思い入れが強く、独りよがりの画になりがちであるが、公開の気分は清水の舞台からエイッである。(笑い)
果たして、脇役の水滴や桜の花びらがいいアクセントになり、主役のツマキチョウを盛り上げてくれただろうか?

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/50秒,絞りF6.3(-0.3)ISO400

使用機材
Nikon D300、VR18~105 mmズームレンズ(98mmで使用)

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家