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about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

オオヤマトンボ(羽化失敗)2010.06.29

5月22日「国際生物多様性の日」、都内の石神井公園に出掛けた。
到着するとY氏から「羽化直後らしきオオヤマトンボの個体が、この状態のまま朝からまったく動かない」と、教えて頂いた。
どうやら羽化の失敗らしい(右後翅が完全に開かずに翅が乾いてしまった状態)。
素早く数枚シャッターを切り一旦此処を後にする。
1時間後に戻るとまさにグッドタイミングで、翅を小刻みに振るわせ筋肉を温め始めた。
果たして飛び出しは如何にと注視する。
僅か20秒ほどで飛び出したものの、まるでバランスの悪い紙飛行機のように飛び出しと同時に水面に落下した。
「バシャ!バシャ!」と、カナヅチの人が溺れたように口をパクパクと苦しげに開閉し、翅をばたつかせ、やっとの体で目の前の草にしがみついた。
このただならぬ音に引き寄せられたか写真の画面右端から肉食のアメンボウがスーッと忍び寄り、オオヤマトンボの様子を窺い始めた。

オオヤマトンボ(エゾトンボ科オオヤマトンボ属)
止水池などの泥沼や池に5月~9月頃発生する。大きさは約80mm前後で北海道から南西諸島にかけて分布。
成熟成虫の♂は広い沼池の周辺をパトロールで飛び回る。
頭部全面には上下に2本の黄色の線が入り、翅胸(しきょう)には黄色と濃い金緑色の輝きがある。
ちなみに名前の由来は、ヤマトンボ亜科では最大種なのでオオヤマトンボ。

オオヤマトンボその後
しがみつくこと3度目でよじ登りに成功(アメンボウはひとまず諦めた様子)。
水で濡れたのが幸いたのか後翅が先ほどよりも少し広がったよううに思えたのだが・・・。
翌日Y氏のホームページを覗くと「23日の朝には居なくなっていた」と、記されていた。

この時の撮影技法(マニュアルフオーカスのすすめ)
カメラのフォーカス(ピント合わせ)について。
ピント=フォーカスといいます。
撮影では大きく分けて「オートフォーカス(自動ピント合わせ)」と「マニュアルフオーカス(手動ピント合わせ)」を使い分けます。
例えば、ケースにもよりますが動きの激しい被写体ではオートフォーカス、動きが少ない被写体ではマニュアルフォーカスが便利という使い方です。
今回のケースではオオヤマトンボにはほとんど動きがないのでマニュアルファーカスにしました。
理由はトンボと水際を一枚の画に収めたいのと、構図に集中したいからです。
オートフォーカスではターゲットを画面中央から外して撮影する場合、シャッター毎に半押しロックを多用しなければなりません。
またトンボの手前に小枝や葉っぱなどがあるとオートファーカスが行ったり来たりと迷走が頻発するからです。
その点マニュアルフオーカスならば手前に枝があろうが葉っぱが風で揺れていようがトンボの小さな目にファーカスを最後まで合わせ続けられるのです。
今回の望遠レンズのデリケートなファーカス(数ミリ)にはマニュアルフォーカスがオススメです。

カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/125秒,絞りF5.6、ISO400,内蔵ストロボ使用

使用機材
Canon EOS40D、300ミリF4 IS

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

三春の滝桜2010.06.21

5月初旬、花見客の少なくなった頃合いを見計らい、平安時代から今日まで想像を絶するほどの多くの人々に愛でられてきた巨樹「三春の滝桜」に会いに旅に出た。
幻想とデジタルカメラを手に滝桜の前に立つ。
今年は寒気がしばらく居座っていたせいか妖艶な花もいまだ少しだけ居残って、ファインダー越しに残り少なくなった花びらが、薫風のリードで悲しげに舞っていた。

三春の滝桜とは
種類:エドヒガン系のベニシダレザクラ(紅枝垂桜)(バラ目バラ科)国天然記念物。
古くから「滝桜」と呼ばれる巨樹で、花が滝のように流れ落ちる様が見事でその呼び名になったといわれる。
また、桜の中では最も長寿な品種の一つで樹齢1000年以上ともいわれる。
樹高13.5m、幹周り8.1m(地上高1.2m)、根回りは11.3m、枝張りは幹から北へ5.5m、東へ11.0m、南へ14.5m、西へ14.0m。(三春町のホームページ参照)
場所:福島県田村郡三春町大字滝字桜久保 

ちなみに、日本三大桜とは「根尾谷淡墨桜」「山高神代桜」「三春の滝桜」。
その中でも最後に妖艶な花を咲かせるのは「三春の滝桜」である。

この時の撮影技法(モノクロームの味わい)
満開の見頃ではないけれど、桜吹雪後の滝桜もまた捨てがたい魅力があるのではと、あえて時期をずらし「三春の滝桜」を撮影した。
遠くから眺め、そして徐々に巨樹に近づいて眺める。
おおよそ大人5人程で囲めるほどのねじれた根回り、四方に張り出した見事な枝張。
その迫力はまるで瀑布の裏側に迷い込んだようだ。
そんな幻想を17ミリ広角レンズのパースペクティブ(遠近法)を活用して撮影した。
モノクロームの滑らかなグラデーションと鮮烈なコントラスト、そこに潜む記憶色。
見る者に委ねる幻想の色や歴史感。
そこにこそモノクロームの深い味わいが隠されているのかもしれませんね。

NikonFとモノクロフィルムの想い出
写真を本格的に習い始めた大学生の頃、最初に買ったカメラは「NikonF」だった。
不思議だが、今でも鮮烈に蘇るのはその時の新品カメラの臭いである。
その良い臭いのするNikon Fに装填したフイルムはいつも決まってKodakのモノクロフイルム「TRI-X(現:400TX)」だった。
100フィート巻きの缶入りを買いもとめ、現像所でゴミとなった空のパトローネを貰い自分で巻き込んで使っていた。
然り、Tri-Xフイルムの臭いもまた私にはたまらなく良い臭いで、いつもカメラを手元に置いてキャパやブレッソンなどの写真集に見入っていた。
そんな学生時代、『IMAGES OF WAR』のある一枚の写真について「カラーかモノクロ」か?明け方まで熱く論争した。
それはロバート・キャパのモノクロ写真で若い兵士が銃弾に倒れ、床に血が水たまりのように広がっている凄惨な一枚だった。
「カラーでは生々過ぎるのではないか」「いや戦争の凄惨を伝えるには生々しいカラーの方が・・・」という論争であった。
1954年5月25日インドシナ。ロバート・キャパ最期の日、ライフ誌の依頼でカラーとモノクロフィルムで撮影していた。
カメラはコンタックスⅡとNikonS。
そして・・・地雷を踏んだ時に手にしていたのは、彼がもっとも信頼していた「NikonS」だといわれている。

カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/500秒,絞りF10、ISO200

使用機材
Canon 5D MarkⅡ、17~40ミリF4( 17ミリ付近で使用)

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

アオゲラ2010.06.04

染井吉野と入れ替わるように八重桜が満開になった頃、赤いベレー帽がよく似合うアオゲラのペアが「トゥルルルルルルル」とリズミカルにドラミングを響かせ八重桜の幹に巣作りの真っ最中である。
しばし穴掘りを注視する。♀が黙々と穴掘りをしているが、♂は現場監督のように時折、進み具合を確認に訪れるだけでほとんど協力しないのである。
自分のことを棚に上げ「この甲斐性なしめ!」と、♂をにらんでいたら、どうやらそうではないらしい。
事情通によると、穴掘りのきっかけは「私、ここが気に入ったわ」と、まず♀が掘り始め、暫くそれを眺めていた♂が意を体し「ここ良いんだね?」と、ラグビーボール大の大きさの穴を猛烈な勢いで掘り進めていき巣穴を完成させるのだという。

アオゲラ(緑啄木鳥、キツツキ目キツツキ科アオゲラ属)
留鳥、本州から屋久島まで生息する日本固有種である。
平地から山地の林で生息。
大きさは約29㎝。
頭部に赤いベレー帽のような帽子をかぶり、顎線も赤色。翼は黄緑色で覆われている。
一回で約5~6個の卵を産み雌雄が交代で抱卵する。
ちなみに、アオゲラの名の由来は、緑色を青ともいうのでアオゲラと呼ばれるようになったそうだ。

この時の撮影技法(情景描写)
アオゲラのアップだと、何処で撮っても似たような画になるので、今回は八重桜という絶好の場所での巣作りである。
狙いは満開の八重桜とアオゲラである。
撮影ポイントは4つ。
①満開の桜が効果的に写り込むアングル。
②巣の入り口がよく見えるアングル。
③仲睦まじいペア。
④雲の動きを見極める。
あとは、この4つの条件を満たすベストポジションを探し出すだけである。

カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/200秒,絞りF6.3、ISO800

使用機材
Canon 5D MarkⅡ、300ミリF4 IS

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家