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about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

妖精たちのポートレート2010.01.25

冬枯れの頃、冬芽と葉痕を覗き込み、その見目様に見とれて空想遊びに迷い込む。
酔っぱらって説教をする親父面がいたかと思うと、品の良い帽子(冬芽)を被った悩み多き少女の顔が見え隠れする。
うっかり少女の裏側を覗くと、いきなり猿や羊が私をにらむのである。
こんな愉快な妖精達が雑木林のあちらこちらにひっそりと隠れているのだ。
そこで、ちょっくら妖精たちにポートレートをお願いして、暫し少年時代にタイムスリップするのも悪くないと思うのです。

葉痕(ようこん)とは
葉が落ちた痕を葉痕(顔の輪郭部分)という。目と口にあたる3カ所の部分が維管束痕(いかんそくこん)樹液が流れた通路の名残。
その痕が、人、羊、猿などの顔を連想させる。葉痕は小さく虫眼鏡が必須。
写真右上から時計回り、オニグルミ、ロウバイ、ソメイヨシノ、イヌビワ、アジサイ、ノイバラ。

この時の撮影技法
「被写界深度プレビューボタンの活用」
この4枚の葉痕(顔に当たる部分)の大きさは約1mm~6mm。
そこで背景のぼかしを考慮に入れNikonの105mmとCanonの100mmマクロレンズをチョイス。
虫眼鏡が必要な程小さな葉痕を、中望遠マクロレンズでもって至近距離(約20cm)で撮るとなると、極端に被写界深度(ピントが合う範囲)が浅くなる。
クローズアップで凹凸のある葉痕の総てにピントを合わせるには条件にもよりますが、最低でもF11以上絞らなければ、ピントを合わせた以外は総てボケてしまいます。
今回は目と口に当たる部分はしっかりとピントが合わなければ豊かな表情を表現できないと考えたのです。
そこで、目と口にピントが合う絞り値を探るためにカメラボディーにある機能「被写界深度プレビューボタン」を押し続け、思い描いた画に必要な絞り値を割り出します。
それと同時に、主役の邪魔になりそうな背景を如何にぼかし処理するかが重要なファクターだと考えています。
しかるに「被写界深度プレビューボタン」は、私の画作りにおいてなによりも大切な機能のひとつとなっています。

使用機材
Nikon D300、105mmVR,100mmマクロレンズ(オニグルミ、ソメイヨシノ、アジサイ、ノイバラ)。Canon 5DMarkⅡ,100mmマクロレンズ(ロウバイ、イヌビワ)。虫眼鏡、三脚、レリーズ、レフ板

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

落ち葉の中の妖精2010.01.15

必死にしがみつく葉を冷たい雨や風が一枚一枚はがしていく晩秋の頃、それまで青い葉の色と同じ緑色から落ち葉と同じ茶色に変わった幼虫がエノキの根元を目指し降りてきます。
それから約6ヶ月ここで冬を過ごし、芽吹く頃また再びエノキの葉を目指ことになります。
そして初夏のころ青紫色の蝶へと生まれ変わり雑木林の中を飛翔するのです。
「どの布団にしようかな~」と下の方を覗き込むこの愛らしい1㎝程の妖精の名は、日本の国蝶「オオムラサキ」といいます。

この日は昆虫に詳しいS氏の案内で都内某所を訪れた。
探すコツは、エノキの根元北側付近の落ち葉を一枚一枚裏返して探します。
その時、よく似たゴマダラチョウ(食樹が同じエノキ)が一緒に見つかりますが、見分け方は簡単で背中に4対の突起があるのがオオムラサキで、3対の突起があるのがゴマダラチョウです。

余談ですが、落ち葉の中に潜り込んだ幼虫(4齢)は11月初め頃から4月末頃までの約6ヶ月間の間に、約30%~40%が死んでしまうそうです。
なかでも1月から2月頃が一番多く、その原因は寒さや天敵ではなく、雨の少ない1~2月の乾燥が幼虫の大敵です。
その事を遺伝子に組み込まれた幼虫は太陽光が直接当たらないエノキの根元、北側付近の湿り気を保てる場所を選びます。
運良く生きのびた幼虫は新芽の芽吹く頃、再び若木のエノキの幹を目指します。
4齢から20日位で5齢へと脱皮をして再び葉と同じ緑色に変わります。

ガッツリとエノキの葉を食べ6月頃6齢から前蛹になり蛹へ、そして7月前後に♂は♀よりも10日程速く羽化を迎えます。
羽化した♂は見事な青紫色の大きな翅を広げ、クヌギやコナラの樹液を吸いに、そして10日遅れの♀を求めて雑木林の中を飛翔する鮮やかなオオムラサキの♂を目にすることになります。
この時期、想像の世界に遊ぶも私の密かな楽しみのひとつです。

オオムラサキ(チョウモ目タテハチョウ科コムラサキ族)
日本の国蝶。北海道から九州まで広く分布している。日本のタテハチョウ科では最大。
♂の表翅は鮮やかな青紫色で、成虫が翅を広げると♂は10㎝程。
♀は♂よりも一回り大きく12㎝程で表翅はこげ茶色をしている。
飛翔速度は速く、滑空するように飛ぶ。幼虫の食樹はエノキ、エゾエノキの葉、成虫はクヌギやコナラの樹液。

この時の撮影技法
落ち葉の中の愛くるしい姿をいかに撮るかがキーポイントです。
そこで下の方を覗き込む仕草が愛くるしいシーンと、アクセントとして幼虫の小さな影を意識して撮影しました。
レンズは1㎝程の小さなオオムラサキの幼虫を写すためにこの日は2本のマクロレンズを準備(60mmの標準と105mm中望遠)。
この場合、少しでもピントの合う範囲(被写界深度)が広い60mmマクロをチョイスしました。
長時間、幼虫と同じ目線になるように俯せ状態で撮影するのでアングルファインダーを止めビニールシートを敷きました。
幸いこの日はとても暖かく幼虫は活発に動き回ってくれたので2時間ほどあらゆるシーンを撮影。撮影後、葉の裏側に潜り込むのを確認できたので強風で葉が飛ばされないように枝数本を注意深く置きここを後にした。

カメラ設定
露出設定マニュアル、露出補正-0.5、シャッタースピード1/350秒,絞りF19、ISO400

使用機材
Nikon D300、ニッコール60mmマクロレンズ(35mm換算90mm)、ビニールシート

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

ムラサキシジミの日向ぼっこ2010.01.04

アラカシの樹にムラサキシジミの巣があり、イロハモミジから僅か3メートル程の所にある。
正午の時刻になるとイロハモミジにサンサンと日が当たる。・・・ということは、この真っ赤なイロハモミジの上で日向ぼっこをするのでは、と鮮やかな配色のイメージをふくらませた。
果たして、気温があがり鮮やかな青紫色を輝かせヒラヒラとムラサキシジミは舞い上がり、イメージ通りにふわりと真っ赤なステージに舞い降りた。

ムラサキシジミ(紫小灰蝶)
チョウ目・シジミチョウ科に属するチョウの一種。
日本では本州から沖縄まで分布しており成虫で越冬。大きさは開帳時で約3~4㎝、表の翅は青紫色の鮮やかな色で黒褐色の縁取りがありとても美しいチョウです。翅を閉じる周りに溶け込むように、こげ茶色の目立たない翅色になり探すのは困難になる。

この時の撮影技法
今回は、「色により露出補正が必要」というお話しです。例えばスキー場などで雪景色を入れて、人を撮ると雪はグレーに、顔は黒く写ってしまい悔しい思いをされた経験は誰にでも一度や二度あると思いますが、何故こんな事が起きるのでしょうか?

それは、ほとんどのカメラの露出計はグレー(反射率18%)を基準値として作られているために、
白色はグレーに、黒色もグレーに露出補正されてしまいます。したがって、オート露出で撮影を行うと白いはずの雪がグレーに写ってしまうことになります。これを避けるひとつの方法として露出補正があります。雪の白さを出すには条件にもよりますが約1~2絞りほどオーバーに露光補正を行います。
今回の写真の場合、オート露出で撮ると深みのある赤いモミジも明るく写ってしまい台無しです。そこで本来の深みの赤を再現するために約2/3絞りほどアンダーに露出補正を行いました。

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/180秒,絞りF5.6、ISO200。

使用機材
Canon EOS 30D ,300mm+1.4テレコン使用

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家