YOUCHOOSE

about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

いっちょまえのキンクロハジロの雛2010.08.24

「人間は穴の空いたバケツのようなもの」まさに、ここ数日の噴き出す汗に納得する。
この日も35℃の目盛はとうに振り切っているはずだが、考えるのも嫌になるほどの猛暑である。
でも、眼前にはキンクロハジロの雛がいるという不可思議。
本来ならばユーラシア大陸に戻っているはずだが・・・?

その答えを、この近くに住むアマチュアカメラマンから直接聞いた「母親は羽を痛めて帰れなくなり数年が経過したのですが、昨年♂が居残ってペアになったのです。
その結果、とてもめずらしいキンクロハジロの雛の誕生というわけです。
この件で野鳥の会の人に確認したのですが、たぶん本州では初めての事らしいです。
今は1羽の雛だけですが、当初は4羽がいました。
でも、餌をあげる人がいましてね、そのため人を怖がらず手の届く所まで餌をもらいに近づくものだから・・・。
私はその瞬間をこの目でみてしまいました。
ネコはひょいと前足を伸ばしてやすやすと捕まえてしまったのです・・・」。

この夏、手加減なしの猛暑である。
とうとう1羽だけになってしまった雛。
でも、我々の心配をよそにいっちょまえに元気に潜水を繰り返していた。

キンクロハジロ(金黒羽白、カモ目カモ科)
日本全国の河川や湖沼、池に冬鳥として10月~4月ごろ飛来する。大きさは全長(翼開長)45㎝前後。名前の由来となっている黄色の目と後頭部に冠羽が特徴。冠羽が寝癖に見えることからネグセドリの俗称がある。繁殖はおもにユーラシア大陸の亜寒帯。一夫一一妻。繁殖時期は、5月から7月。卵数は6~12個。食性は雑食で潜水して貝類、甲殻類、水生昆虫、水草など。北海道で少数が繁殖。

この時の撮影技法(動く雛をAIサーボで追い続ける)
フワフワした羽毛の中にパチリと愛らしい瞳である。
これだけでもう容赦ない暑さを忘れてしまいそうだ。
そこで今回は、チョコチョコと動き続ける雛を手持ちで追うにはAIサーボとても便利な機能なので使わないとモッタイナイというお話です。
AIサーボとは動く被写体に対し動きを予測して絶えずファーカスを合わせ続ける機能です。
ただしこの追尾機能にはチョット注意が必要です。
動きのある雛の目に、望遠レンズの絞り開放値では正確なフォーカス、すなわちデリケートなピントはとても難しいということになります。
そこで、この日は晴だったけれども日陰に入る頻度が多かったので、その解決法の一例として感度設定を高感度(400)に上げました。
絞りを(F10)まで絞り込み、小さな雛(15㎝ほど)の体全体にファーカスがくるように被写界深度を深くしました。
このポイントをおさえることにより狙い定めた撮影意図に集中出来るのです。

カメラ設定
露出設定:絞り優先オート-1/3補正、AFモードAI SERVOシャッタースピード1/160秒,絞りF10、ISO400

使用機材
Canon40D 、レンズEF 300mm F4 IS 。

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

スウィフトの『ガリバー旅行記』2010.07.20

利かん坊だった幼稚園児の頃、悪さをしては柱に縛られていた。
不思議だが叱られた原因が今でもハッキリと思い出せない。
たぶん、兄弟の分のお菓子を独りで全部食べちゃった事とか、父との約束を守らなかった、などが原因だと思うのだが・・・、多すぎてよく覚えていないのかもしれない。

そんな叱られた日の夜、決まって母の膝の上で絵本を読んでもらっていた。
そして、今でもあの日のことは鮮明に覚えている。
絵本の中にスウィフトの『ガリバー旅行記』小人の国編があり、母がページをめくる毎に目を見開いていたのを。

エサキモンキツノカメムシ(江崎紋黄角亀虫)
半翅目(カメムシ目)・異翅亜目(カメムシ亜目)・ツノカメムシ科。
6月から7月上旬東京都内ではミズキの葉っぱの裏に産卵を終えたエサキモンキツノカメムシを見ることが出来ます。
♀は飲まず食わず外敵から我が子を守る。
背中に黄色の(「小楯板(しょうじゅんばん)ハート型の模様を刻む。
大きさは10~14㎜。ちなみに、エサキとは命名者の「ハセガワ」氏が昆虫学者・「江崎悌三博士」に捧げたからだそうです。

アミメアリ(網目蟻)ハチ目(膜翅目)・アリ科・フタフシアリ亜科。
日本全国に広く分布。
体長3㎜ほど。
女王はおらず働き蟻のみで産卵繁殖する。
頭部と胸部には光沢が無く細かな突起状の編み目があるので和名のアミメアリの名前の由来となっている。
腹端には微細な毒針を有すが、人を刺した報告はないそうだ。
湿気のある地上や樹上の葉っぱなどを歩き回り獲物を探す。

この時の撮影技法(ねむたくならないライティング)
今回は、ねむたくなりがちな(立体感に乏しくコントラストのない画)写真の解消法です。
内蔵ストロボだけではどうしても平面でねむたい画になりがちです。
そこでもう一灯外付けストロボで画に立体感を味付けするのです。

撮影場所はチョウの「ミドリシジミ」で有名な埼玉県の秋が瀬公園です。
黄昏飛翔が始まる5時頃この場面に遭遇しました。
一目で上記の『ガリバー旅行記』を思いだしてしまった意です。
周りは薄暗くストロボは必須。
そこで内蔵ストロボと外付けの小型ストロボを使用。
内蔵ストロボはディフィーザーで柔らかく拡散して、なおかつ控え目に(-2/3)抑えた。外付けストロボはスレーブで右後方から当て、画がねむたくならないように(+2/3)強めにして立体感とコントラストをつけた。
絞りは、回折減少で解像度が低下するのを覚悟で(85㎜マクロレンズは被写界深度が浅い)F13まで絞り込みました。

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/80秒,絞りF13、ISO400、内蔵ストロボ使用マニュアル設定(-2/3)

使用機材
Nikon D300、85 mm VRマクロレンズ、外部サンパックPF20XDストロボ1灯。

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

梅雨、ヒダリマキマイマイ2010.07.13

三脚を担いでねっとりとした空気の中をダラダラと歩いていた。
なにやら雲行きが怪しい。
「そろそろきりあげるか・・」と、三脚をたたみながらオカトラノオとその周りをチェックする。と、視線の先に見覚えのあるシルエットがチラリと目に留まった。
「やっぱりいましたか!」それも2匹が寄り添っている。
もしや・・・と、眼を研ぎ澄ます。
それは初めてお目にかかる「ヒダリマキマイマイの交尾」であった。
梅雨、ヒダリマキマイマイ、丁寧にカシャリ!

ヒダリマキマイマイ(左巻蝸牛)有肺目オナジマイマイ科
日本には500~800種以上いるが殆どが右巻きである。
写真の左巻きのカタツムリは珍しく日本では5種いるそうだ。
高温多湿を好み梅雨時になると活発になる。
雌雄同体。交尾は両方のカタツムリがお互いの精子のやりとりをし、両方共に産卵する。
生存率の低さを補うためではと考えられている。

既知と未知
さてさて今日どんな生き物に出会えるかな・・・と、
デジカメを抱えて出撃する。
その日の、その季節の生き物や植物を頭の片隅に留めて、好奇心の固まりでもって生き物を探すのである。
この日の行動時系列。
まず、夏みかんの樹にナガサキアゲハの終齢幼虫を見つける。
次にヤブカラシに級蜜に訪れるハチやチョウを観察。
移動して池の周りのトンボをチェック、運良くギンヤンマの交尾に遭遇したので柵の上に飛び乗り撮影。噴き出す汗を拭いながら約2時間経過。
風向き変わり雲行きが怪しくなってきた。
ここで「頭の片隅」に留めておいた梅雨の象徴のひとつ「カタツムリ」を無意識に探す。
ん!?いました!「既知」のカタツムリです、が・・・でも、なんとなく何時もの様子と比べて変です。
なんと視線の先には、とても珍しい「未知」の世界が繰り広げられていました。
既知から未知への展開、得てして見逃してしまいそうな未知への瞬間にこそ生き物撮影の醍醐味が潜んでいるのかも知れませんね。

この時の撮影技法(ストロボを感じさせない自然な描写と色再現)
暗い環境なので三脚使用。カタツムリのいる環境は得てして薄暗いので、その雰囲気を大切にしたい。
よってアンダー露出で暗く撮る。
交尾中のカタツムリには殆ど動きがないのでセルフタイマーを2秒にセット。
シャッターを押す。
この2秒の間に小型携帯ストロボを手持ちでカメラ左上前方にかざす。
セルフタイマー作動してシャッターが降りたら、露出時間中(1.3秒)すかさず小型ストロボを隠し味程度に1回だけ発光させ撮影完了です。
ポイントはストロボ光を感じさせない自然な描写と色再現をめざす。

カメラ設定
露出設定マニュアル、セルフタイマー使用、シャッタースピード1.3秒,絞りF14(-1)ISO200

使用機材
Nikon D300、VR85 mmマクロレンズ、外部サンパックPF20XDストロボ1灯、三脚ベンロカーボンネオフレックスC-298m8。

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

オオヤマトンボ(羽化失敗)2010.06.29

5月22日「国際生物多様性の日」、都内の石神井公園に出掛けた。
到着するとY氏から「羽化直後らしきオオヤマトンボの個体が、この状態のまま朝からまったく動かない」と、教えて頂いた。
どうやら羽化の失敗らしい(右後翅が完全に開かずに翅が乾いてしまった状態)。
素早く数枚シャッターを切り一旦此処を後にする。
1時間後に戻るとまさにグッドタイミングで、翅を小刻みに振るわせ筋肉を温め始めた。
果たして飛び出しは如何にと注視する。
僅か20秒ほどで飛び出したものの、まるでバランスの悪い紙飛行機のように飛び出しと同時に水面に落下した。
「バシャ!バシャ!」と、カナヅチの人が溺れたように口をパクパクと苦しげに開閉し、翅をばたつかせ、やっとの体で目の前の草にしがみついた。
このただならぬ音に引き寄せられたか写真の画面右端から肉食のアメンボウがスーッと忍び寄り、オオヤマトンボの様子を窺い始めた。

オオヤマトンボ(エゾトンボ科オオヤマトンボ属)
止水池などの泥沼や池に5月~9月頃発生する。大きさは約80mm前後で北海道から南西諸島にかけて分布。
成熟成虫の♂は広い沼池の周辺をパトロールで飛び回る。
頭部全面には上下に2本の黄色の線が入り、翅胸(しきょう)には黄色と濃い金緑色の輝きがある。
ちなみに名前の由来は、ヤマトンボ亜科では最大種なのでオオヤマトンボ。

オオヤマトンボその後
しがみつくこと3度目でよじ登りに成功(アメンボウはひとまず諦めた様子)。
水で濡れたのが幸いたのか後翅が先ほどよりも少し広がったよううに思えたのだが・・・。
翌日Y氏のホームページを覗くと「23日の朝には居なくなっていた」と、記されていた。

この時の撮影技法(マニュアルフオーカスのすすめ)
カメラのフォーカス(ピント合わせ)について。
ピント=フォーカスといいます。
撮影では大きく分けて「オートフォーカス(自動ピント合わせ)」と「マニュアルフオーカス(手動ピント合わせ)」を使い分けます。
例えば、ケースにもよりますが動きの激しい被写体ではオートフォーカス、動きが少ない被写体ではマニュアルフォーカスが便利という使い方です。
今回のケースではオオヤマトンボにはほとんど動きがないのでマニュアルファーカスにしました。
理由はトンボと水際を一枚の画に収めたいのと、構図に集中したいからです。
オートフォーカスではターゲットを画面中央から外して撮影する場合、シャッター毎に半押しロックを多用しなければなりません。
またトンボの手前に小枝や葉っぱなどがあるとオートファーカスが行ったり来たりと迷走が頻発するからです。
その点マニュアルフオーカスならば手前に枝があろうが葉っぱが風で揺れていようがトンボの小さな目にファーカスを最後まで合わせ続けられるのです。
今回の望遠レンズのデリケートなファーカス(数ミリ)にはマニュアルフォーカスがオススメです。

カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/125秒,絞りF5.6、ISO400,内蔵ストロボ使用

使用機材
Canon EOS40D、300ミリF4 IS

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

三春の滝桜2010.06.21

5月初旬、花見客の少なくなった頃合いを見計らい、平安時代から今日まで想像を絶するほどの多くの人々に愛でられてきた巨樹「三春の滝桜」に会いに旅に出た。
幻想とデジタルカメラを手に滝桜の前に立つ。
今年は寒気がしばらく居座っていたせいか妖艶な花もいまだ少しだけ居残って、ファインダー越しに残り少なくなった花びらが、薫風のリードで悲しげに舞っていた。

三春の滝桜とは
種類:エドヒガン系のベニシダレザクラ(紅枝垂桜)(バラ目バラ科)国天然記念物。
古くから「滝桜」と呼ばれる巨樹で、花が滝のように流れ落ちる様が見事でその呼び名になったといわれる。
また、桜の中では最も長寿な品種の一つで樹齢1000年以上ともいわれる。
樹高13.5m、幹周り8.1m(地上高1.2m)、根回りは11.3m、枝張りは幹から北へ5.5m、東へ11.0m、南へ14.5m、西へ14.0m。(三春町のホームページ参照)
場所:福島県田村郡三春町大字滝字桜久保 

ちなみに、日本三大桜とは「根尾谷淡墨桜」「山高神代桜」「三春の滝桜」。
その中でも最後に妖艶な花を咲かせるのは「三春の滝桜」である。

この時の撮影技法(モノクロームの味わい)
満開の見頃ではないけれど、桜吹雪後の滝桜もまた捨てがたい魅力があるのではと、あえて時期をずらし「三春の滝桜」を撮影した。
遠くから眺め、そして徐々に巨樹に近づいて眺める。
おおよそ大人5人程で囲めるほどのねじれた根回り、四方に張り出した見事な枝張。
その迫力はまるで瀑布の裏側に迷い込んだようだ。
そんな幻想を17ミリ広角レンズのパースペクティブ(遠近法)を活用して撮影した。
モノクロームの滑らかなグラデーションと鮮烈なコントラスト、そこに潜む記憶色。
見る者に委ねる幻想の色や歴史感。
そこにこそモノクロームの深い味わいが隠されているのかもしれませんね。

NikonFとモノクロフィルムの想い出
写真を本格的に習い始めた大学生の頃、最初に買ったカメラは「NikonF」だった。
不思議だが、今でも鮮烈に蘇るのはその時の新品カメラの臭いである。
その良い臭いのするNikon Fに装填したフイルムはいつも決まってKodakのモノクロフイルム「TRI-X(現:400TX)」だった。
100フィート巻きの缶入りを買いもとめ、現像所でゴミとなった空のパトローネを貰い自分で巻き込んで使っていた。
然り、Tri-Xフイルムの臭いもまた私にはたまらなく良い臭いで、いつもカメラを手元に置いてキャパやブレッソンなどの写真集に見入っていた。
そんな学生時代、『IMAGES OF WAR』のある一枚の写真について「カラーかモノクロ」か?明け方まで熱く論争した。
それはロバート・キャパのモノクロ写真で若い兵士が銃弾に倒れ、床に血が水たまりのように広がっている凄惨な一枚だった。
「カラーでは生々過ぎるのではないか」「いや戦争の凄惨を伝えるには生々しいカラーの方が・・・」という論争であった。
1954年5月25日インドシナ。ロバート・キャパ最期の日、ライフ誌の依頼でカラーとモノクロフィルムで撮影していた。
カメラはコンタックスⅡとNikonS。
そして・・・地雷を踏んだ時に手にしていたのは、彼がもっとも信頼していた「NikonS」だといわれている。

カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/500秒,絞りF10、ISO200

使用機材
Canon 5D MarkⅡ、17~40ミリF4( 17ミリ付近で使用)

POSTED BY:
tsugionishimura_image

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家