- TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
- 1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。
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麗しい風景(オオワシの棲む森)2010.04.28
胸の底にどっぷりと浸かっていたオオワシへの想いが叶い、晴れ晴れとした気持ちで流氷の海から下船した。
その日の午後、オオワシの棲む森に立つ。
目の前の樹上には数羽のオオワシが静かに休息している。
澄み渡る青空の下、辺りはシーンと静まりかえり時折「ドサッ」と雪の落ちる音が聞こえるのみだ。
ただただボーッと麗しい風景に見とれていると、オオワシの樹の下にエゾシカの親子がゆっくりと現れた。
オオワシ(大鷲)
タカ目タカ科オジロワシ属、絶滅危惧類Ⅱ種(環境省鳥類レッドリスト)
♂ 88cm ♀ 103cm(220-250cm)体色は黒と白で、嘴はオレンジがかった黄色。
翼を広げると優に2メートルを超え日本に棲む猛禽では最大の鳥。
日本へは越冬の為に飛来する冬鳥。
北海道ではごく少数が繁殖するそうだ。
写真のように越冬地では水辺の森の樹上で休む。
主食は主に魚類のフィツシュバードであるが、まれに死んだ野ウサギやエゾジカなどの肉も食べる。
この時の撮影技法
不思議と天気には恵まれるらしく、此処でも青空の下での撮影となった。
オオワシはいったいどんな場所で休息しているのであろうか?
「見てみたいな」と思い行動しました。
そして、探し当てたその空間は私にとってまさに「麗しい風景」そのものでした。
まずは主役のオオワシのアップから撮影開始、そして周りの環境をカメラに納め終わると、突然エゾシカの親子がゆっくりと現れました。
主役はオオワシなれどエゾシカの出現に私のテーマである「麗しい風景」に変更です。
素早く70~200ズームレンズでフレーミングをしてエゾシカの動きだけを注視する。
理想的な場所に移動し、母シカ?が顔を上げた瞬間にシャッターを押した。
この突然のエゾシカ出現により、オオワシの棲む森の存在感をより一層引き立ててくれたように感じますがいかがでしょうか。
カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/500秒,絞りF9.5、ISO125
使用機材
Canon 1Ds MarkⅡ、70~200ミリF2.8ISレンズ(焦点距離130mm)
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写真家
カミソリの海へ2010.03.26
見てみたい・・・と思った。
その鳥はアムール川を離れた流氷と共にオホーツク海にやって来るという。
何時の日だったか記憶は曖昧ではあるが、日本で一番小さな野鳥「キクイタダキ」を目にしたその日から始まった。
ならば日本で一番大きいな野鳥のひとつを見てみたいと思うのが人の常だ、と・・・。
都合良く自分に言い聞かせた故、とうとう羅臼へ来てしまった意である。
まだ夜の明けきらぬ港に立つ、潮風はやはりキリリと冷たくて、髭剃り後のチクリとした痛みが頬に当たる感あり。
デジカメを抱いていざカミソリの海へ。
この時の撮影技法
出航後のスナップの一コマです。
5時30分出航、日の出は6時8分。
薄ボンヤリと国後島が浮かび上がってきた5時50分頃、この画のシャッターを押した。
その時のインスピレーションは、待ち焦がれたワクワク感「逸る気持ち」そんな漠然とした思いを画に出来たら・・・と、考えました。
そこで今回の撮影ポイントは2つ。
①「逸る気持ちのワクワク感」の表現。
②「夜明け前の厳冬海」の表現。
①の表現方法はブルー(寒色系)との補色関係にある船のライトの暖かい色味(暖色系)でワクワク感を演出。
全体の寒々とした色調の中で、ワンポイントの暖かい光が画を引き締めてくれるように感じました。
②の表現方法。
夜明け前の仄暗い雰囲気をローキートーン(-露光による暗い画面の調子)で調整する。
そこで露出はマニュアルで-補正を行い、ホワイトバランスは現像時に蒼海色に調整する。
さらに人の立ち位置バランスも重要と思い、望みの位置に人影が移動するのを待ってスローシャッター1/13を押した。
さて「逸る気持ち」が画に出来ただろうか?
旅のスナップとフィールドノート
私は、道中の雑感スナップを数多く撮ります。
たとえば今回の場合、港へ向かう前に宿の周りでキタキツネをパチリ、港に着いて船をパチリ、出航の様子をパチリ、餌付けの魚の種類をパチリ、漁船内の様子、漁船から見た景色。
宿に帰ると、その土地で食べたもの、その土地で気になった雑誌、パンフレットなどなど手当たり次第にパチリパチリとスナップする。
当然デジタルカメラの画像データには時刻がしっかりと時系列で記録され、後々の手引きメモとして残されているからです。
それと平行して、フィールドノートに時間の許す限り撮影内容を、メモします。
内容は「何時、何処で、誰が、何を、どうした」などを簡潔にメモします。
勿論、地元の人に聞いた話の内容などもメモします。数日後、数年後、膨大な画像データの中から必要な画像データを、フィールドノートのメモを頼りに素早く探し出せるという仕掛けなのです。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/13秒,絞りF4(-補正)ISO400
使用機材
Canon EOS 5D、24~70ミリF4IS,レンズ(24mmで使用)
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写真家
Display(オオハクチョウ)2010.02.19
オオハクチョウのディスプレイは人間臭くて実に興味深い。
例えば、飛び立つときの合図。
家族のリーダーらしき者が「コォーッ」と一鳴き「みんな準備はいいかな?飛び立つよ」と、まるでお父さんが号令を発しているようでもある。
また、子供を引き連れて飛来した際の挨拶も微笑ましい「みんな~!うちの子供達宜しくね~!」と、深々と頭を下げて紹介する姿がまるで子供の公園デビュー時の母親みたいである。
ところで・・・、この写真の彼はどんな口説き文句を囁いているのだろうか?
ディスプレイとは、求愛や威嚇など行うために、鳴き声や動作、姿勢などでより自分を大きく誇示する行為。
オオハクチョウ(大白鳥)カモ目カモ科。成鳥は全長約140cm、翼開長約230cm、体重約10㎏。雌雄同色。
空を飛ぶ生き物の限界体重ともいわれています。
シベリアやオホーツク沿岸で繁殖をして、越冬の為に日本に飛来する冬鳥。
この時の撮影技法
冬鳥の楽園のひとつ涛沸湖(とーふっこ)網走市小清水町を訪れた。
今回のキーポイントは2つ。
ディスプレイ時の①「微笑ましい表情」と環境の②「スケール感」が重要と考えてカメラポジションを決定した。
①はズームレンズ70~200mmの広角側である70mmで二羽を手前に大きく配置し、オオハクチョウの微笑ましい表情と存在感を際だたせることにしました。
②は絞りをf13まで絞り込むことにより手前のオオハクチョウから右上奥の斜里岳までピントがある程度合うようにして、北海道の雄大なスケール感を画にしてみましたが如何だったでしょうか?
寒暖差による結露対策の話
寒いこの時期、温かい飲み物などをすすると途端に眼鏡が曇る友人を目にし笑った経験は誰にでもあるはずですが、まさにこれの親分みたいな結露が寒冷地には潜んでいます。
例えば、氷点下-10℃での長時間撮影後はカメラボディーやレンズは氷みたいに冷え切っています。
この状態で「いい画が撮れた!」と、意気揚々と宿に戻り、温かい室内でいきなりカメラを取り出し画像確認をしようものなら、急激な寒暖差によりカメラボディーやレンズ内で結露が生じてしまいます。
最悪の場合、電気回路やレンズ内に結露が発生し修理不能ということになってしまいます。
そんな不注意による事故を防ぐには、宿に入る前にビニール袋にカメラを入れて密封し、部屋に戻っても室温に慣れるまで数時間はじっと我慢、決して開けてはなりません。
厳寒での結露対策はゆめゆめお忘れ無く。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/250秒,絞りF13、ISO100
使用機材
Canon 1Ds MarkⅡ、70~200ミリF2.8ISレンズ(70mmで使用)
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
SMILE2010.02.01
「明日の新潟市の天気予報は雪でしょう」とアナウンスが流れた。
ここ1週間ほどKさんと「雪舞うシーンのトラフズクを狙いたいね」と話していたのである。
この雪の予報に敏感に反応した我々は速攻で新幹線座席指定とレンタカー予約を済ませ車中の人となった。
湯沢を通過するころから車窓には大雪が舞っている「フフフッ」・・・と、二人して顔を見合わせ期待が膨らむ。
が・・・、しかし、そうはうまくいかぬがこの世の習わしで、撮影地は事もあろうに青空があざ笑って出迎えてくれたのである。
天気には勝てないので、雪舞うシーンはあきらめてトラフズクを探すが・・・、2日前の猛吹雪で何処へ移動したようでいくら探しても見つからないのである。
我々はちょっとだけ肩を落としつつ第二の目的オオヒシクイに予定変更する。
そこで向かった先は福島潟近くの田んぼである。
ピュッと行きパッと農道に車を止め、警戒心の強いオオヒシクイを車中から狙っていると、11時の方角からオオヒシクイの群れがこちらに向かって近づいてきた。
騒がしく鳴き交わしながら車の上空を飛び去って行く後ろ姿をファインダーで追い続けると、なんとチラホラとSMILEが見えるのではないか。
(なるほど!あざ笑いの意はこれだったか!?)と私は慌ててSMILEにフォーカスを合わせてシャッターを押した。
オオヒシクイ「カモ目カモ科」
国の天然記念物に指定。雌雄同色。日本には「ヒシクイ」とそれよりも少し大きい「オオヒシクイ」の2種がいる。
大きさはコハクチョウより少し小さく98㎝ほどで翼を広げると約2m。
カムチャツカから越冬のために飛来する。
警戒心が特に強い。謎の多いガンで未だ巣も卵も見つかっていないそうです。
ちなみに、名前の由来は菱の実を好んで食べることからオオヒシクイと名付けられた。
この時の撮影技法
「イマジネーションとシャッターチャンス」
前方からの飛翔よりも、後ろ姿の創り出す面白いデザインにハッとして撮影しました。
偶然にも、眉毛と目にあたる2羽が同時に翼を下に、口にあたる1羽が最適の場所に居て翼を上に上げています。
この撮影にあたり私は以下の様に考え行動しています。
まず撮影意図を明確にしつつイマジネーションを絶えず膨らませ、視点を変えて撮るとどのように見えるのだろうか?
大人の視点では、子供の視点では、虫の視点では、鳥の視点では。
そして、とても大切な要素のひとつである天候。
晴れた日に適した被写体、曇ったときに適した、雨の日に適した、雪の日に適した、嵐の日に適した被写体・・・。
と、視点や天候により限りなくイマジネーションが広がります。
不思議と「シャッターチャンスは今だよ」と、毎回笑いかけてくれるような感じがしています。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/1600秒,絞りF14、ISO400
使用機材
Canon 5D MarkⅡ、300ミリISレンズ
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
妖精たちのポートレート2010.01.25
冬枯れの頃、冬芽と葉痕を覗き込み、その見目様に見とれて空想遊びに迷い込む。
酔っぱらって説教をする親父面がいたかと思うと、品の良い帽子(冬芽)を被った悩み多き少女の顔が見え隠れする。
うっかり少女の裏側を覗くと、いきなり猿や羊が私をにらむのである。
こんな愉快な妖精達が雑木林のあちらこちらにひっそりと隠れているのだ。
そこで、ちょっくら妖精たちにポートレートをお願いして、暫し少年時代にタイムスリップするのも悪くないと思うのです。
葉痕(ようこん)とは
葉が落ちた痕を葉痕(顔の輪郭部分)という。目と口にあたる3カ所の部分が維管束痕(いかんそくこん)樹液が流れた通路の名残。
その痕が、人、羊、猿などの顔を連想させる。葉痕は小さく虫眼鏡が必須。
写真右上から時計回り、オニグルミ、ロウバイ、ソメイヨシノ、イヌビワ、アジサイ、ノイバラ。
この時の撮影技法
「被写界深度プレビューボタンの活用」
この4枚の葉痕(顔に当たる部分)の大きさは約1mm~6mm。
そこで背景のぼかしを考慮に入れNikonの105mmとCanonの100mmマクロレンズをチョイス。
虫眼鏡が必要な程小さな葉痕を、中望遠マクロレンズでもって至近距離(約20cm)で撮るとなると、極端に被写界深度(ピントが合う範囲)が浅くなる。
クローズアップで凹凸のある葉痕の総てにピントを合わせるには条件にもよりますが、最低でもF11以上絞らなければ、ピントを合わせた以外は総てボケてしまいます。
今回は目と口に当たる部分はしっかりとピントが合わなければ豊かな表情を表現できないと考えたのです。
そこで、目と口にピントが合う絞り値を探るためにカメラボディーにある機能「被写界深度プレビューボタン」を押し続け、思い描いた画に必要な絞り値を割り出します。
それと同時に、主役の邪魔になりそうな背景を如何にぼかし処理するかが重要なファクターだと考えています。
しかるに「被写界深度プレビューボタン」は、私の画作りにおいてなによりも大切な機能のひとつとなっています。
使用機材
Nikon D300、105mmVR,100mmマクロレンズ(オニグルミ、ソメイヨシノ、アジサイ、ノイバラ)。Canon 5DMarkⅡ,100mmマクロレンズ(ロウバイ、イヌビワ)。虫眼鏡、三脚、レリーズ、レフ板
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家