- TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
- 1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

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アオゲラ2010.06.04
染井吉野と入れ替わるように八重桜が満開になった頃、赤いベレー帽がよく似合うアオゲラのペアが「トゥルルルルルルル」とリズミカルにドラミングを響かせ八重桜の幹に巣作りの真っ最中である。
しばし穴掘りを注視する。♀が黙々と穴掘りをしているが、♂は現場監督のように時折、進み具合を確認に訪れるだけでほとんど協力しないのである。
自分のことを棚に上げ「この甲斐性なしめ!」と、♂をにらんでいたら、どうやらそうではないらしい。
事情通によると、穴掘りのきっかけは「私、ここが気に入ったわ」と、まず♀が掘り始め、暫くそれを眺めていた♂が意を体し「ここ良いんだね?」と、ラグビーボール大の大きさの穴を猛烈な勢いで掘り進めていき巣穴を完成させるのだという。
アオゲラ(緑啄木鳥、キツツキ目キツツキ科アオゲラ属)
留鳥、本州から屋久島まで生息する日本固有種である。
平地から山地の林で生息。
大きさは約29㎝。
頭部に赤いベレー帽のような帽子をかぶり、顎線も赤色。翼は黄緑色で覆われている。
一回で約5~6個の卵を産み雌雄が交代で抱卵する。
ちなみに、アオゲラの名の由来は、緑色を青ともいうのでアオゲラと呼ばれるようになったそうだ。
この時の撮影技法(情景描写)
アオゲラのアップだと、何処で撮っても似たような画になるので、今回は八重桜という絶好の場所での巣作りである。
狙いは満開の八重桜とアオゲラである。
撮影ポイントは4つ。
①満開の桜が効果的に写り込むアングル。
②巣の入り口がよく見えるアングル。
③仲睦まじいペア。
④雲の動きを見極める。
あとは、この4つの条件を満たすベストポジションを探し出すだけである。
カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/200秒,絞りF6.3、ISO800
使用機材
Canon 5D MarkⅡ、300ミリF4 IS
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
忘れ雪のスプリング・エフェメラル2010.05.21
4月16日、朝から冷たい雨が降り続いている。
夜7時過ぎ、麻布十番の取材先へ向かうカーラジオから耳を疑うようなアナウンスが聞こえてきた。
「都心ではこれから雪に変わるかもしれません・・・」。
もしも都心で雪が降ることがあれば41年振りの遅い雪であるという。
ゆっくり動く車のワイパーをぼんやりと眺めながら、「そういえば、昨日まで取材に行っていた沖縄もこの時期にしては少し肌寒かったよな・・・」と、独り言を呟きながら取材先へ向かう。
真夜中の3時過ぎ。
急ぎ仕事の画像処理を終えると、「・・・もしかして」と、カーテン越しに窓の外を見渡す。
雪!それも41年振りの遅い雪が降っている。
この季節はずれの「忘れ雪」にもはや心穏やかではいられないけれど、ここはひとまず眠らねばと急ぎベッドに潜り込む「この雪の中、諸喝采の花が咲き乱れたあの場所のツマキチョウたちは今頃どうしているのだろう・・・か・z・・zzz」。
朝6時、バネ仕掛けのように跳ね起きる。
ニコンD300にVR18~105 mmのズームレンズをもどかしげに装着する。
忘れ雪、寒さに耐えるツマキチョウの一瞬の輝きを見逃してなるものかとドタバタと長靴に足を突っ込み転がるように「忘れ雪のスプリング・エフェメラル」にあいに行く。
ツマキチョウ(チョウ目・シロキチョウ科)
♂は翅を開けると前翅表面の先端が橙色のとてもお洒落な配色をしています。
♀は前翅表面の先端はかすかな黒い模様と白地の少し渋めの色合いです。後翅裏は写真のように雌雄とも迷彩色の編目模様になっています。
年一回、春先に(3月から5月)見られることから春の妖精「スプリング・エフェメラル」(春の儚い命などの意)とも呼ばれています。
この時の撮影技法
雪の重みで倒れた諸喝采の花を注意深く見ていくと、ほどなく目的のツマキチョウを見つけることが出来ました。
今回のキーポイントは、雪景色なのに冬ではなく春「忘れ雪」の季節感をいかに表現できるか。
雪が雨に変わり、傘と長靴そしてビニールシートを準備した。
また、この環境下ではレンズ交換は極力避けたかったのでニコンD300にVR18~105 mmのズームレンズをチョイス。
雨でぬかるんだ地面にシートを敷き、左手に傘をさし腹這い状態で泥だらけになりながら撮影した図である。
傍目には滑稽このうえなしである。
このケース、アングルファインダーを使ってもよいのだが何故だか臨場感に欠けるように思え、近頃は滅多に使わなくなってしまった。
理由は今起きていることに対し同じ目線で対峙したいからである。
このように苦労して撮影した写真には思い入れが強く、独りよがりの画になりがちであるが、公開の気分は清水の舞台からエイッである。(笑い)
果たして、脇役の水滴や桜の花びらがいいアクセントになり、主役のツマキチョウを盛り上げてくれただろうか?
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/50秒,絞りF6.3(-0.3)ISO400
使用機材
Nikon D300、VR18~105 mmズームレンズ(98mmで使用)
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写真家
麗しい風景(オオワシの棲む森)2010.04.28
胸の底にどっぷりと浸かっていたオオワシへの想いが叶い、晴れ晴れとした気持ちで流氷の海から下船した。
その日の午後、オオワシの棲む森に立つ。
目の前の樹上には数羽のオオワシが静かに休息している。
澄み渡る青空の下、辺りはシーンと静まりかえり時折「ドサッ」と雪の落ちる音が聞こえるのみだ。
ただただボーッと麗しい風景に見とれていると、オオワシの樹の下にエゾシカの親子がゆっくりと現れた。
オオワシ(大鷲)
タカ目タカ科オジロワシ属、絶滅危惧類Ⅱ種(環境省鳥類レッドリスト)
♂ 88cm ♀ 103cm(220-250cm)体色は黒と白で、嘴はオレンジがかった黄色。
翼を広げると優に2メートルを超え日本に棲む猛禽では最大の鳥。
日本へは越冬の為に飛来する冬鳥。
北海道ではごく少数が繁殖するそうだ。
写真のように越冬地では水辺の森の樹上で休む。
主食は主に魚類のフィツシュバードであるが、まれに死んだ野ウサギやエゾジカなどの肉も食べる。
この時の撮影技法
不思議と天気には恵まれるらしく、此処でも青空の下での撮影となった。
オオワシはいったいどんな場所で休息しているのであろうか?
「見てみたいな」と思い行動しました。
そして、探し当てたその空間は私にとってまさに「麗しい風景」そのものでした。
まずは主役のオオワシのアップから撮影開始、そして周りの環境をカメラに納め終わると、突然エゾシカの親子がゆっくりと現れました。
主役はオオワシなれどエゾシカの出現に私のテーマである「麗しい風景」に変更です。
素早く70~200ズームレンズでフレーミングをしてエゾシカの動きだけを注視する。
理想的な場所に移動し、母シカ?が顔を上げた瞬間にシャッターを押した。
この突然のエゾシカ出現により、オオワシの棲む森の存在感をより一層引き立ててくれたように感じますがいかがでしょうか。
カメラ設定
露出設定マニュアル露出、シャッタースピード1/500秒,絞りF9.5、ISO125
使用機材
Canon 1Ds MarkⅡ、70~200ミリF2.8ISレンズ(焦点距離130mm)
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
カミソリの海へ2010.03.26
見てみたい・・・と思った。
その鳥はアムール川を離れた流氷と共にオホーツク海にやって来るという。
何時の日だったか記憶は曖昧ではあるが、日本で一番小さな野鳥「キクイタダキ」を目にしたその日から始まった。
ならば日本で一番大きいな野鳥のひとつを見てみたいと思うのが人の常だ、と・・・。
都合良く自分に言い聞かせた故、とうとう羅臼へ来てしまった意である。
まだ夜の明けきらぬ港に立つ、潮風はやはりキリリと冷たくて、髭剃り後のチクリとした痛みが頬に当たる感あり。
デジカメを抱いていざカミソリの海へ。
この時の撮影技法
出航後のスナップの一コマです。
5時30分出航、日の出は6時8分。
薄ボンヤリと国後島が浮かび上がってきた5時50分頃、この画のシャッターを押した。
その時のインスピレーションは、待ち焦がれたワクワク感「逸る気持ち」そんな漠然とした思いを画に出来たら・・・と、考えました。
そこで今回の撮影ポイントは2つ。
①「逸る気持ちのワクワク感」の表現。
②「夜明け前の厳冬海」の表現。
①の表現方法はブルー(寒色系)との補色関係にある船のライトの暖かい色味(暖色系)でワクワク感を演出。
全体の寒々とした色調の中で、ワンポイントの暖かい光が画を引き締めてくれるように感じました。
②の表現方法。
夜明け前の仄暗い雰囲気をローキートーン(-露光による暗い画面の調子)で調整する。
そこで露出はマニュアルで-補正を行い、ホワイトバランスは現像時に蒼海色に調整する。
さらに人の立ち位置バランスも重要と思い、望みの位置に人影が移動するのを待ってスローシャッター1/13を押した。
さて「逸る気持ち」が画に出来ただろうか?
旅のスナップとフィールドノート
私は、道中の雑感スナップを数多く撮ります。
たとえば今回の場合、港へ向かう前に宿の周りでキタキツネをパチリ、港に着いて船をパチリ、出航の様子をパチリ、餌付けの魚の種類をパチリ、漁船内の様子、漁船から見た景色。
宿に帰ると、その土地で食べたもの、その土地で気になった雑誌、パンフレットなどなど手当たり次第にパチリパチリとスナップする。
当然デジタルカメラの画像データには時刻がしっかりと時系列で記録され、後々の手引きメモとして残されているからです。
それと平行して、フィールドノートに時間の許す限り撮影内容を、メモします。
内容は「何時、何処で、誰が、何を、どうした」などを簡潔にメモします。
勿論、地元の人に聞いた話の内容などもメモします。数日後、数年後、膨大な画像データの中から必要な画像データを、フィールドノートのメモを頼りに素早く探し出せるという仕掛けなのです。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/13秒,絞りF4(-補正)ISO400
使用機材
Canon EOS 5D、24~70ミリF4IS,レンズ(24mmで使用)
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
Display(オオハクチョウ)2010.02.19
オオハクチョウのディスプレイは人間臭くて実に興味深い。
例えば、飛び立つときの合図。
家族のリーダーらしき者が「コォーッ」と一鳴き「みんな準備はいいかな?飛び立つよ」と、まるでお父さんが号令を発しているようでもある。
また、子供を引き連れて飛来した際の挨拶も微笑ましい「みんな~!うちの子供達宜しくね~!」と、深々と頭を下げて紹介する姿がまるで子供の公園デビュー時の母親みたいである。
ところで・・・、この写真の彼はどんな口説き文句を囁いているのだろうか?
ディスプレイとは、求愛や威嚇など行うために、鳴き声や動作、姿勢などでより自分を大きく誇示する行為。
オオハクチョウ(大白鳥)カモ目カモ科。成鳥は全長約140cm、翼開長約230cm、体重約10㎏。雌雄同色。
空を飛ぶ生き物の限界体重ともいわれています。
シベリアやオホーツク沿岸で繁殖をして、越冬の為に日本に飛来する冬鳥。
この時の撮影技法
冬鳥の楽園のひとつ涛沸湖(とーふっこ)網走市小清水町を訪れた。
今回のキーポイントは2つ。
ディスプレイ時の①「微笑ましい表情」と環境の②「スケール感」が重要と考えてカメラポジションを決定した。
①はズームレンズ70~200mmの広角側である70mmで二羽を手前に大きく配置し、オオハクチョウの微笑ましい表情と存在感を際だたせることにしました。
②は絞りをf13まで絞り込むことにより手前のオオハクチョウから右上奥の斜里岳までピントがある程度合うようにして、北海道の雄大なスケール感を画にしてみましたが如何だったでしょうか?
寒暖差による結露対策の話
寒いこの時期、温かい飲み物などをすすると途端に眼鏡が曇る友人を目にし笑った経験は誰にでもあるはずですが、まさにこれの親分みたいな結露が寒冷地には潜んでいます。
例えば、氷点下-10℃での長時間撮影後はカメラボディーやレンズは氷みたいに冷え切っています。
この状態で「いい画が撮れた!」と、意気揚々と宿に戻り、温かい室内でいきなりカメラを取り出し画像確認をしようものなら、急激な寒暖差によりカメラボディーやレンズ内で結露が生じてしまいます。
最悪の場合、電気回路やレンズ内に結露が発生し修理不能ということになってしまいます。
そんな不注意による事故を防ぐには、宿に入る前にビニール袋にカメラを入れて密封し、部屋に戻っても室温に慣れるまで数時間はじっと我慢、決して開けてはなりません。
厳寒での結露対策はゆめゆめお忘れ無く。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/250秒,絞りF13、ISO100
使用機材
Canon 1Ds MarkⅡ、70~200ミリF2.8ISレンズ(70mmで使用)
POSTED BY:

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家