- TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
- 1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。
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息絶えるバルタン星人2009.09.14
ムモンホソアシナガバチのコロニーを目指して急ぎ足で歩いていると、
ポトリと目の前に何か落ちてきました。
近づいて覗き込むと
アブラゼミが樹の表皮の一片を抱えて今にも息絶えようとしています。
「!?・・・、夏もそろそろ終わりかな・・・」などと思いつつも、
ふと何気ない日常の一コマに
夏の終わりの哀愁を感じカメラを構える事にしました。
アブラゼミは世界でも珍しい翅全体が不透明のセミで、
日本の夏を象徴するセミの一種です。
成虫の寿命は約1~2週間、
名前の由来は油で揚げ物をするときの音が
アブラゼミの鳴き声に似ている事からアブラゼミと呼ばれています。
天敵は鳥、ハチなどの昆虫、前回の冬虫夏草などの菌類、
さらには天敵と言えるか解りませんが、
写真に小さく赤く写り込んでいるタカラダニ
(セミに赤いダニがくっついていると宝物を抱えているように見えるということから、
タカラダニと言う説がある)
など。
それにしても、このバルタン星人、無事に命のバトンは出来たのだろうか?
と、・・・夏の終わりに独り想う。
笑えない話
種類は違うがクマゼミの産卵で笑えないニュースがありました。
西日本ではクマゼミが大量発生して
「光ファイバーケーブルを枯れ枝と間違えて産卵したために断線被害が多発」
の報道。
インターネットにも思わぬ天敵がいたものです。
この時の撮影技法
息絶えるバルタン星人の存在感を如何に表現出来るかがポイント。
イメージ表現の一例としてデフォルメされたセミと、
かつ多少なりとも背景も解るような深い被写界深度が欲しくて、
ドアスコープの様な形をした虫の目レンズの「魚露目」を使用。
セミの前約2㎝にカメラを地面にセット。
接写リングやテレコンをかませるとレンズはかなり暗くなるので、
セルフタイマーを2秒にセットしてカメラブレを軽減。最後に静かにシャッターを押した。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/4秒,絞りF18、ISO 200
使用機材
Nikon D300、接写リング12ミリ+1.5Xテレコン+ニッコール28~85ミリズームレンズ(45ミリで使用)+魚露目レンズ。
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
白いセミ2009.08.28
蝉時雨を背中に浴びながら、森の地面を注意深くある物を探して歩いていた。
普段は上の方を注視しながら歩き回るのだが、地面を見て歩き回るのである。
ある方が「森の底を読む」と表現していたが、まさに言い得て妙である。這い蹲るように探していたある物とは、蝉をホスト(宿主)するツクツクボウシタケの冬虫夏草。
探してみると意外に多く見つかるもので、その中からセミの形が多少なりとも解る物を選び角度を変えて撮影。それから約2時間後、蝉時雨に加われなかった物たちに思いを馳せここを後にした。
ちなみに、
冬虫夏草は漢方薬、アガリスクなどで有名だが、元々はチベットのコウモリガの幼虫を指すそうである。しかし今は昆虫などから出るキノコを総称として冬虫夏草と呼ぶとのこと。
【この時の撮影技法】
スコップで約5㎝の冬虫夏草を注意深く掘り出し、地中の状況が解るように作業を行う。
掘り終えたら地面にお手製カメラ用座布団(約20㎝×20㎝中身は小豆)。を地面に敷き、その上にカメラを置いて角度を自由に固定する。冬虫夏草と環境を取り入れるために8ミリ魚眼レンズをチョイス。ただしこのレンズはカメラの撮像素子1.6倍でも四隅がケラレてしまうので1.5Xテレコンをボディーとレンズの間にかませる。
その結果テレコン使用により冬虫夏草約5センチまで接近可能となる。しかし被写界深度の深い魚眼レンズでも接写ではピントが浅くなるので絞り込みが必要となる。
絞り込み過ぎによる「回折現象」を避けるためF11まで絞り込む。背景の絞りF11が決まったら主題の冬虫夏草の露出を計る。計測結果、約2絞りほど露出アンダーであったのでストロボ光で主題の露出をコントロールする。
【外付けストロボのコツ】
レンズと冬虫夏草の間隔が近すぎるため(約5㎝)レンズが邪魔をしてカメラ内蔵のストロボ光が冬虫夏草に届かない。そこで超小型のサンパックPF20XDストロボ1灯を改造拡散板(半透明のフイルムケースを半分に切りストロボ発光窓にテープで貼り付ける)で光を柔らかくする。
3秒の露光中に手持ちストロボのテストボタンを押し、左から1回、右から1回の合計2回発光させ光のコントロールを行う。
このように露光時間3秒あれば外部ストロボを福数回発光可能となる。従って動かない被写体の場合、手持ちストロボはあらゆる角度から福数回の発光が可能となるのである。
【カメラ設定】
露出設定マニュアル、シャッタースピード3秒,絞りF11、ISO 200
【使用機材】
デジタル一眼レフカメラ、8ミリ魚眼レンズ+1.5Xテレコン、カメラの座布団(地面に敷きその上にカメラを置いて角度を自由に固定するためのお手製座布団、中身は小豆を入れています)、サンパックPF20XDストロボ1灯、園芸用スコップ。
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写真家
配色の妙2009.08.14
きっと3色が重なる瞬間があるはずだ!と、飛び交うトンボの種類にある確信を抱き行動を起こした。その思い描いた場面とは・・・。
上からショウジョウトンボ(赤)、オオシオカラトンボ♂(青)、オオシオカラトンボ♀(黄)、まるで信号機の様な「赤、青、黄」の配色。
それは、昆虫4億年の命のリレーが作り上げた必然の形と色彩なのだが、飛び交うトンボを見て、それを交差点、信号機、と連想してしまう安易さを嘆きながらも配色の妙に魅せられて具現化するための方策を練った。
夏のタンポポは春のもの(ロゼット型で地面に這うように葉を低く広げる)よりも背が高く、産卵のために水辺にやってくるトンボたちの縄張り拠点には好都合なのか、条件の良い場所は縄張争いの場と変わる。近づくよそ者には果敢に攻撃をしかけ、好みの雌には求愛行動をとる。
写真のオオシオカラトンボ♂は腹端にある器官から福生器に精子移し替え♀に精子を渡し終えた直後にこのタンポポに飛来。
♀の首根っこをはさみ他の♂に♀が浮気をしないように監視をかねた休息タイム?なのか暫く微風にまかせて休んでいました。そこへショウジョウトンボが止まった瞬間です。
これこそ、一枚の絵に収まる瞬間があるのではないかと密かに狙っていた構図です。吹き出す汗に耐え諦めかけたその時に我がレンズの先に思い描いた世界が展開されました。
この時の撮影技法
観察した結果、トンボの縄張りに都合がいいタンポポの一本に絞り込む。トンボと同じ目線の地上20センチにローアングル用三脚とカメラをセット。
かつトンボに刺激を与えない距離(約3メートル)が保てる望遠レンズ300ミリ(35ミリ換算480ミリ)を選択。
ローアングルの為、ファインダーを上から覗けるアングルファインダーを取り付ける。あとは、思い描くドラマまでのなが~ぃ待ちに対応するため、「ワイヤレスコントローラー」でシャッターチャンスをじっくりと待つ。太陽光は半逆光をチョイスして主役のトンボの立体感と透明感引き出す。
カメラ設定:シャッタースピード1/640,絞りF8、ISO 400、露出補正-1/3
使用機材
一眼レフデジタルカメラ、レンズ:300ミリ、アングルファインダー、ローアングル用三脚、ワイヤレスコントローラー。
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写真家
木陰の宝石「マルタンヤンマ」2009.08.04
35℃前後の猛暑日になると涼しい水辺の木陰に涼を求め、低い枝にマルタンヤンマ(ヤンマ科,大きさ70~75mm)が昼寝?にやって来ます。♂は、まるで深い湖の様に澄み切ったコバルトブルーの複眼。数いるトンボの中でもこの美しさは群を抜いています。都内某所の公園では茹だるような猛暑日に限り、手に取れる近さで出会える数少ないシャッターチャンス。この時も、燃えるような暑さをやり過ごしたマルタンヤンマは、かすかな翅音と涼風を残し飛び去った。ちなみにマルタンヤンマの名前の由来は、フランスのトンボ学者「R. Martin」にちなんでいるとのこと。
この時の撮影技法
美しいコバルトブルーに輝く「透明感のある複眼の色」の再現が撮影のポイントです。(肉食のトンボであるマルタンヤンマの美しいコバルトブルーは、生きている時にしか見られません)この時は薄暗い場所にいるので色を出すためにストロボを使用。カメラ横からストロボ発光部にディフィーザーで柔らかな光を作り、なおかつ不自然な光にならないようにごく弱く発光量をセット。もう一灯はマルタンヤンマの斜め後方から翅の透明感と、立体感を表現するために一絞り分ほど明るめに光量をセット。この二つのストロボを赤外線リモコンで同調させて撮影。この昼寝中の?マルタンヤンマは少々の事では驚かないので、ライティングは思いのまま。
使用機材
デジタル一眼レフカメラに300ミリ望遠レンズ、グリップタイプストロボ2灯、赤外線リモコン、ライティング用スタンド2脚、透過光ディフィーザー1枚、三脚、レリーズ使用。
これから、
季節感溢れるネイチャーフォトとそれにまつわる写真技法を展開していきたいと思っています。
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家