- TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
- 1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

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狩りから戻ったクロスズメバチ2010.12.14
恐る恐る、どれだけの震動で飛び出すのだろうか?
と、巣穴から2メートル程で「ドン!ドン!」と踏み鳴らすも反応がない。
ならば30㎝程では如何に、と「ドン!ドン!」、案の定スクランブルがかかり後ずさり。
でも、威嚇性も攻撃性も弱いので巣穴から3メートル程に避難しつつ、何に対して反撃をしかけるかと観察する。
やはり、黒色のカメラボディー、ストロボの黒色の箇所、レンズ(ハチ自身が映り込むからか?)などに集中する。
暫くするとハチの興奮も落ち着き、巣穴から50cmほどの至近距離から観察を続行。
ときおり巣穴から顔を出し外の様子をうかがう者、重そうに肉団子やアオマツムシの足らしき物を持ち帰る者、巣の中から土や枯れ葉を運び出す者、レイジー(怠慢)らしき者、飛び出しと同時に空中衝突する者などなど、実に興味深く喜悦満面でシャッターを押す。
クロスズメバチ(黒雀蜂)ハチ目、クロスズメバチ属。
体長は女王バチ15mm~16mm,働きバチ10~12mm,オス12~14mm。
スズメバチの中では小型。
全身は黒く、白色または淡黄色の横縞模様。
北海道、本州、四国、 九州、奄美大島など広く分布する。
おもに地中に大きな巣をつくる。
地方により呼び方が、スガレ、ヘボ、タカブなどと呼ばれ一部では食用とされる。
3月下旬頃から女王バチは活動を開始し、働き蜂は6月頃羽化、新女王蜂や雄蜂は10月~12月に羽化する。
ハエ、アブ、ガの幼虫、蜘蛛などの小さな昆虫を主に狩り、幼虫の餌として与える。
成虫の餌は、樹液や終齢幼虫の唾液腺から分泌された栄養液。
毒性、威嚇性、攻撃性は弱い。
この時の撮影技法(道具立て)
獲物を持ち帰るクロスズメバチを、被写界深度の深いフィッシュアイレンズで狙うことにした。
おとなしいといっても相手はスズメバチ。
そこで、撮影シミュレーションを行い必要な道具立てを考えます。
それはまるで「あれもこれも」とお菓子をリュックに詰め込む、高揚した小学生の頃の遠足前夜です。
撮影当日、パンパンに膨らんだカメラバックを背負い、脇目もふらず一心に自転車を転がす僕がおります。
①カメラを地面にセット
カメラを地面に置く時に便利なカメラ座布団(お手製)を使用。これは好きな角度に簡単に素早く設定出来る優れもの。カメラは縦位置で巣穴7㎝程にセット。
②魚眼レンズに外部ストロボ2灯
魚眼レンズは画角が広いので、ストロボをレンズの前方には出せない。
ギリギリの位置決めのため、ローアングルの自由度が効く三脚ベンロカーボンネオフレックスC-298m8にCANON SPEEDLITE 580EX+エツミストロボディフューザーG6をセット(魚眼レンズ用に拡散ディフューザーとして)カメラ上部にセット。
もう一灯の580EXは左側にセット。
CANON SPEEDLITE TRANSMITTER ST-E2でスレーブ。
さらに、小型のSUNPAK PF20XD+ミニ三脚SLIK PRO-MINI Ⅲをレンズ横からマニュアル光量で使用。
③シャッターは遠隔操作
「ドン!ドン!」で怒り狂ったクロスズメバチを、離れた位置から遠隔操作ができるCANON WIRELESS CONTROLLER LS5を使用。
ハチが落ち着くと、レンズ横から覗き獲物を抱えたクロスズメバチが巣に飛び込むタイミングをはかる。
カメラ設定
絞り値:F/14、シャッタースピード:1/250秒,露出モード:マニュアル、露出補正:-1/3段、測光モード:スポット測光、ISO感度設定:ISO 400、
使用機材
CANON 40D、SIGMA 8mm f/8 1:3.5 EX DG FISHEYE、KENKO 1.5XTEREPURUS MC、CANON WIRELESS CONTROLLER LS5 、CANON SPEEDLITE TRANSMITTER ST-E2、CANON SPEEDLITE 580EX2灯使用+エツミストロボディフューザーG6、三脚ベンロカーボンネオフレックスC-298m8、ミニストロボSUNPAK PF20XD+ミニ三脚SLIK PRO-MINI Ⅲ、お手製カメラ座布団。
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
秋を告げるクロナガアリ2010.11.30
「ソイヤソイヤ」と秋の収穫祭が行われていた。
と、いっても御輿(エノコログサのタネ)の上で見事な足技を披露しているのは、日本人と同じイネ科植物を食す唯一のクロナガアリ。
今年の猛暑も涼しい地中で過ごしていたが、秋の収穫期に合わせ地上に現れたのだ。
私は、祭囃子に促されるように最前列のカメラマン席にローアングルで陣取った。
クロナガアリ(黒長蟻)ハチ目・アリ科・フタフシアリ亜科。
働きアリの体長は約4~5mm、女王アリ約10㎜。
地中深くに巣を作る。体は黒色で、頭部と胸部は艶がなく、丸い腹部のみ艶がある。
日本のアリは約270種いるといわれるが、このクロナガアリのみが唯一、イネ科植物のオヒシバやエノコログサなどの種子を食料とする。
本州、四国、九州、屋久島などで年2回ほど見ることができる。
一回目は羽アリになり4~5月の良く晴れた日に一日だけの婚約飛行を行う。
二回目はイネ科植物の種子が落ちる秋に再び地上に現れ、食料となる種子を拾い集め巣に運び込む。
運び込まれた種子は精米担当アリに渡され、カビたり腐ったりしないように皮を剥き、ピカピカに磨いて食料として貯蔵する。
収穫が終わると再び本来の地中生活にもどる。
この時の撮影技法(被写界深度とは)
被写界深度とは一言で言えば「ピントの合う範囲」のことを指します。
写真撮影技術を理解するうえで「被写界深度」はとても重要なアイテムのひとつです。
絞り、焦点距離、被写体との距離、撮像センサーサイズと密接な関係にあります。
●絞り
仮に、今回使った標準マクロレンズの絞りがF2.8~F22までだとします。
開放絞りとはF2.8のことを指します。
この絞りで撮影するとピントを合わせた前後の範囲はボケるので「被写界深度が浅い」といいます。
逆にF22だと、絞り込むといいます。
ピントを合わせた被写体の前後が、かなりの範囲までピントが合ったように見えるのでの「被写界深度が深い」といいます。
●焦点距離
広角レンズと望遠レンズとでは被写界深度が異なります。
広角レンズは被写界深度が深いレンズともいえます。
開放でもそこそこ被写界深度は深く、さらに絞り込む事により被写体の手前から背景まで明確にピントが合ったように見えるので「被写界深度が深いレンズ」または「パンフォーカス」といいます。
逆に、望遠レンズは絞り込んでもピントの合った前後の範囲は狭いので「被写界深度が浅いレンズ」ともいえます。
●被写体との距離
至近距離、すなわちマクロレズなどで接写を行うと、ピントの合う前後の範囲が極端に狭くなります。
上の写真ではF16まで絞り込み被写界深度を深くしていますが、ここまで絞り込んでも「接写では被写界深度が浅くなる」といえます。
●撮像センサーサイズ
撮像センサーサイズの違いでも被写界深度は異なります。
撮像センサーの小さな「コンパクトデジタルカメラは被写界深度が深い」といえます。
逆に「35㎜フルサイズデジタルカメラは被写界深度が浅い」といえます。
以上、少し説明が長くなりましたが、初心者脱出の切り札は「被写界深度を理解」する事だといっても過言ではありません。
今までの、カメラまかせの撮影から脱却して、自分の意志でカメラを操るマニュアル設定。そこにこそ自分の思い描いた画作りのヒントが隠されています。
今回の写真では、動き回る3匹のアリにある程度のピントがくるようにF16まで絞り込みましたが、それでも接写ではピントの合った前後の範囲は狭く、出来れば最大値のF22まで絞り込みたいところです。
でも、すでにF16まで絞ってしまったために回折現象が起き描写が若干甘くなっています。
しかし、それを覚悟してまでも被写界深度を稼ぐためにF16まで絞り込みました。
何度も言うようですが、接写時の被写界深度はとても浅くデリケートなピント合わせが必要なのです。
(回折現象についてはいずれ・・・)
カメラ設定
露出モード:マニュアル、絞り値:F/16、シャッタースピード:1/250秒、露出補正:±0、測光モード:スポット測光、ISO感度設定:ISO 640、内蔵ストロボ:±0、コマンダー設定外部ストロボ+1/3補正
使用機材
Nikon D300、AF Micro NIKKOR 60mm 1:2.8、Nikon SPEEDLIGHT SB-600、内蔵ストロボ:エツミポップアップストロボディフューザー(ナチュラル) E-6218、レジャーシート
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写真家
思案顔のオンブバッタ2010.10.13
秋口、ごく普通に見られる雌のオンブバッタに出会った。
なんだか、他の個体よりも警戒心が少ないようだ。
彼女との距離は2メートル程。
早速、私は総ての動作をスローモーションに切り替え、抜き足差し足で慎重に間合いを詰めた。
そろ~り、と後ろ姿、横顔、そして「面構えは如何に」と正面に回り込み対峙する。
すると、彼女はおもむろに頬杖をつき、「ふ~っ」と深いため息をひとつと吐いた。
オンブバッタ(負飛蝗)バッタ目、オンブバッタ科、オンブバッタ亜科
日本全国に生息。
日当たりの良い平地の草原や半日陰の林縁などでごく普通に見られるバッタの仲間。
成虫は8月から12月頃に見られ、大きさは♂25㎜前後、♀42㎜前後。食草はキク科、シソ科、ダテ科、クズ、など。
ちなみに名前の由来は、和名の通りで小さな♂をオンブしている姿からオンブバッタ。
この時の撮影技法(虫に近づくコツABC)
写真を撮られる事が嫌いな方がいらっしゃるように、昆虫にも写真嫌いがいるようだ。
運悪く警戒心の強い個体を選んでしまったら、近寄ることすら難しく、カメラを向けただけで逃げられてしまいます。
そこで、今回は虫に近づくコツABCです。
1,モデルを選ぶ
同種の虫がたくさんいたら、出来るだけ警戒心の強くない個体を探す。
2,虫に近づく時にはスローモーション。
急な動きは虫を驚かせるので、極力動作はスローモーション。
3,カメラストラップに気を付けよう。
お目当ての虫を見つけて喜び勇んで接近。
でも、だらりと垂れ下がったカメラストラップが、枝葉などに当たって逃げられた、とならないために、だらりと垂れ下がった余分なカメラストラップは手に巻き付けるなどして予防しよう。
上記以外に、服の色(紫外線)、香水(フェロモン)、虫除けスプレーなど、昆虫の種、個体の性格もまちまちで一概にこれが良いとは言えませんが、大抵の場合は上記の3点を注意することにより、かなりの確率で接近可能です。
あとはじっくりと生態を観察して、狙ったシーンを待ち構えましょう。
(※注意:秋口にはスズメバチのコロニーが最大になり神経質です。黒い色の服や香水などは避けた方が懸命です)
カメラ設定
絞り値:F/9、シャッタースピード:1/200秒,露出モード:マニュアル、露出補正:-1/3段、測光モード:スポット測光、ISO感度設定:ISO 800、
使用機材
Nikon D300、AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
風を送る暇なヒメスズメバチ2010.09.17
9月5日、熱風がピタリと止んだ昼下がり、私は社会性に富んだスズメバチのある行動に見入っていた。
それは、薄暗い樹洞の入り口で懸命に翅を振るわせ、巣の中に新鮮な空気を送りこんでいるヒメスズメバチの行動であった。
規則正しく、3分ほど新鮮な風を巣の中に送り込むと一旦巣の中に消え、それから5分ほどで再び先ほどの定位置に戻り「では、始めますか!」と送風を繰り返すのであった。
「巣の中が暑いから外に出て扇ぐ」この行動の疑問を調べてみた。
狩りなどに参加しない暇な働きバチが現れると、その暇な働きバチは餌集めの変わりに巣の警護や送風係を担当するらしい。
ヒメスズメバチ(ハチ目 細腰亜目 スズメバチ科 スズメバチ亜科)
腹部は黄色と黒の縞模様、腹端が黒い(他は黄色)のは本種のみなので見分けは簡単。
性格はスズメバチの中で最もおとなしく毒性も弱い。
体長25~36㎜、オオスズメバチ(スズメバチの中では世界最大)の次に大きい。
現れる時期は4~10月、本州~南西諸島。営巣場所は屋根裏、地中、樹洞などの閉鎖的な空間。
成虫は糖質を含んだ樹液や花蜜。
繁殖期にはアシナガバチの幼虫や蛹のみを襲い、その場で獲物をかみ砕き体液を吸いとり、巣に持ち帰り幼虫の餌として与える。
シタバガ(ヤガ科シタバガ亜科)
画面上に一緒に写りこんでいるのは地衣類に似た白斑を散りばめた前翅を持つ大型のシタバガです。
このようにスズメバチの入り口に張り付いているのを他の場所でも目撃しているのだが、何故一緒にいるかは謎である。
この時の撮影技法(ブレで躍動感を表現する)
繁殖の真っ最中にスズメバチの巣に近づくのはとても危険だが、ヒメスズメバチの性格はは上記の通りとてもおとなしく、手出しさえしなけば全然怖くありません。
さて、今回のキーポイントは「翅の動き」を如何に表現するか。
① ストロボのベストポジションを探し出す。
「ブ~ン、ブ~ン」と迫力満点の羽音と共に鼻先をかすめるよう出入りするなか、巣の入り口(約30㎝)にて、どの角度からストロボを当てたら翅の透明感とテカリが出せるのか、そのベストの角度をLEDライトで探し出します。
望みの角度が見つかったらその位置にカメラ(内蔵ストロボ)をセットします。
② 翅の躍動感をLEDライトの光をプラスしてスローシャッターで写す。
撮影環境が明るければLEDライトは不要ですが、ここは暗いのでLEDライトを使いました。
ご存じのように、小型ストロボの高速閃光では動きを止めるには好都合ですが、翅の動きをぶらして表現するには不向きです。
そこでLEDライトの光量をプラスして翅のブレが効果的に写るシャッタースピードを設定します。
最後に思い描くシーンでシャツターを押すだけです。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/50秒,絞りF13、ISO400、内蔵ストロボ発光(-補正0.5)
使用機材Nikon D300、VR 85 mmマクロレンズ、LEDライト、エツミポップアップストロボディフューザー(ナチュラル) E-6218、赤外線リモコン(ベルボンTwin1 R4N)、三脚使用。
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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
ハリウッドスター顔負けのアジアイトトンボ2010.09.03
熱風のなか、アジアイトトンボのお嬢さまがスイーツならぬご馳走が目の前を横切るのを辛抱強く待ち構えていた。
ときおり婚活の若者が言い寄るも、よっぽどお腹がすいているのか適当にあしらっていた。
それではとパパラッチよろしく、ちょっくらお写真をとカメラを差し出すと「ハ~イ!」とお得意のポーズで決めてくれたのである。
激写の後「サンキュー!」と声をかけるまもなく目の前を横切ったスィーツをガブリと頬張っていらしたが、「食べるシーンの公開はノーよ」と、まるでハリウッドスター顔負けでやんわりと断られてしまった。
アジアイトトンボ 均翅亜目(きんしあもく)イトトンボ科 アオモンイトトンボ属
大きさは28㎜前後。
5月~10月ごろ北海道南部から南西諸島に発生する。平地の池や沼などに生息。
羽化したての♀は少し赤っぽい色をしていますが成熟するにしたがい緑色に変わる。
名の由来はアジアに広く分布するのでアジアイトトンボ。
この時の撮影技法(ユーモラスな瞬間を捉える)
お顔をよく見ると、複眼が左右に離れているのでとてもユーモラスでフォトジエニックだ。
観察を続けるとときおり目の掃除をする姿がユーモラスでそこを狙うことにした。
そこで、今回のキーポイントは、三脚不使用時のカメラ安定法です。
小さくて絶えず動き回るので今回は三脚が不向きでした。
そこで手ぶれを起こさぬ様に立て膝の上にカメラを置き安定させます。
こうすることで暫くの間、安定した状態で待ち受ける事が可能になります。
あとはじっと待機してその瞬間を待ち構えるだけです。
カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/160秒,絞りF9、ISO400
使用機材
Nikon D300 、VR85mm マクロレンズ
POSTED BY:

TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家