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about

TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

落ち葉の中の妖精2010.01.15

必死にしがみつく葉を冷たい雨や風が一枚一枚はがしていく晩秋の頃、それまで青い葉の色と同じ緑色から落ち葉と同じ茶色に変わった幼虫がエノキの根元を目指し降りてきます。
それから約6ヶ月ここで冬を過ごし、芽吹く頃また再びエノキの葉を目指ことになります。
そして初夏のころ青紫色の蝶へと生まれ変わり雑木林の中を飛翔するのです。
「どの布団にしようかな~」と下の方を覗き込むこの愛らしい1㎝程の妖精の名は、日本の国蝶「オオムラサキ」といいます。

この日は昆虫に詳しいS氏の案内で都内某所を訪れた。
探すコツは、エノキの根元北側付近の落ち葉を一枚一枚裏返して探します。
その時、よく似たゴマダラチョウ(食樹が同じエノキ)が一緒に見つかりますが、見分け方は簡単で背中に4対の突起があるのがオオムラサキで、3対の突起があるのがゴマダラチョウです。

余談ですが、落ち葉の中に潜り込んだ幼虫(4齢)は11月初め頃から4月末頃までの約6ヶ月間の間に、約30%~40%が死んでしまうそうです。
なかでも1月から2月頃が一番多く、その原因は寒さや天敵ではなく、雨の少ない1~2月の乾燥が幼虫の大敵です。
その事を遺伝子に組み込まれた幼虫は太陽光が直接当たらないエノキの根元、北側付近の湿り気を保てる場所を選びます。
運良く生きのびた幼虫は新芽の芽吹く頃、再び若木のエノキの幹を目指します。
4齢から20日位で5齢へと脱皮をして再び葉と同じ緑色に変わります。

ガッツリとエノキの葉を食べ6月頃6齢から前蛹になり蛹へ、そして7月前後に♂は♀よりも10日程速く羽化を迎えます。
羽化した♂は見事な青紫色の大きな翅を広げ、クヌギやコナラの樹液を吸いに、そして10日遅れの♀を求めて雑木林の中を飛翔する鮮やかなオオムラサキの♂を目にすることになります。
この時期、想像の世界に遊ぶも私の密かな楽しみのひとつです。

オオムラサキ(チョウモ目タテハチョウ科コムラサキ族)
日本の国蝶。北海道から九州まで広く分布している。日本のタテハチョウ科では最大。
♂の表翅は鮮やかな青紫色で、成虫が翅を広げると♂は10㎝程。
♀は♂よりも一回り大きく12㎝程で表翅はこげ茶色をしている。
飛翔速度は速く、滑空するように飛ぶ。幼虫の食樹はエノキ、エゾエノキの葉、成虫はクヌギやコナラの樹液。

この時の撮影技法
落ち葉の中の愛くるしい姿をいかに撮るかがキーポイントです。
そこで下の方を覗き込む仕草が愛くるしいシーンと、アクセントとして幼虫の小さな影を意識して撮影しました。
レンズは1㎝程の小さなオオムラサキの幼虫を写すためにこの日は2本のマクロレンズを準備(60mmの標準と105mm中望遠)。
この場合、少しでもピントの合う範囲(被写界深度)が広い60mmマクロをチョイスしました。
長時間、幼虫と同じ目線になるように俯せ状態で撮影するのでアングルファインダーを止めビニールシートを敷きました。
幸いこの日はとても暖かく幼虫は活発に動き回ってくれたので2時間ほどあらゆるシーンを撮影。撮影後、葉の裏側に潜り込むのを確認できたので強風で葉が飛ばされないように枝数本を注意深く置きここを後にした。

カメラ設定
露出設定マニュアル、露出補正-0.5、シャッタースピード1/350秒,絞りF19、ISO400

使用機材
Nikon D300、ニッコール60mmマクロレンズ(35mm換算90mm)、ビニールシート

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

ムラサキシジミの日向ぼっこ2010.01.04

アラカシの樹にムラサキシジミの巣があり、イロハモミジから僅か3メートル程の所にある。
正午の時刻になるとイロハモミジにサンサンと日が当たる。・・・ということは、この真っ赤なイロハモミジの上で日向ぼっこをするのでは、と鮮やかな配色のイメージをふくらませた。
果たして、気温があがり鮮やかな青紫色を輝かせヒラヒラとムラサキシジミは舞い上がり、イメージ通りにふわりと真っ赤なステージに舞い降りた。

ムラサキシジミ(紫小灰蝶)
チョウ目・シジミチョウ科に属するチョウの一種。
日本では本州から沖縄まで分布しており成虫で越冬。大きさは開帳時で約3~4㎝、表の翅は青紫色の鮮やかな色で黒褐色の縁取りがありとても美しいチョウです。翅を閉じる周りに溶け込むように、こげ茶色の目立たない翅色になり探すのは困難になる。

この時の撮影技法
今回は、「色により露出補正が必要」というお話しです。例えばスキー場などで雪景色を入れて、人を撮ると雪はグレーに、顔は黒く写ってしまい悔しい思いをされた経験は誰にでも一度や二度あると思いますが、何故こんな事が起きるのでしょうか?

それは、ほとんどのカメラの露出計はグレー(反射率18%)を基準値として作られているために、
白色はグレーに、黒色もグレーに露出補正されてしまいます。したがって、オート露出で撮影を行うと白いはずの雪がグレーに写ってしまうことになります。これを避けるひとつの方法として露出補正があります。雪の白さを出すには条件にもよりますが約1~2絞りほどオーバーに露光補正を行います。
今回の写真の場合、オート露出で撮ると深みのある赤いモミジも明るく写ってしまい台無しです。そこで本来の深みの赤を再現するために約2/3絞りほどアンダーに露出補正を行いました。

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/180秒,絞りF5.6、ISO200。

使用機材
Canon EOS 30D ,300mm+1.4テレコン使用

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

雲上のバス2009.12.07

ここは立山の弥陀ヶ原からクネクネ道を5分ほど下山した辺りである。
先ほどまで初冠雪の紅葉に酔いしれていた私は、
まるで火照った心を冷ますように最終下山バスに乗り込んだ。
疾走するバスの車窓からは、真っ赤なナナカマドが後方に飛び去り、
天空は紅葉からの色渡しを待ち焦がれたように、
厳粛に夕方のマジックアワーが幕を開けた。

立山
山地の総称で、大汝山、雄山、富士ノ折立の3000メートル級の3つの峰を
現在は立山と称することが多い。
今回は立山ケーブルカーと立山高原バスを乗り継ぎ
標高2350メートルの室堂まで直接バスで行く。

この時の撮影技法
ブレを抑えるにはシャッタースピードを速く設定することが肝心ですが、
当然被写体、撮影環境、表現方法によりシャッタースピードの限界は異なります。
例えば、舞台撮影の場合、
暗い舞台での役者の激しい動きを止めるにはチョットしたコツがあります。
それは激しい動きの中にも一瞬動きが止まる瞬間が必ずあります。
その一瞬を見極めてシャッターを切るわけです。
当然、疾走するバスにもブレの少ない瞬間が必ずありそこを見極める事こそが一番のキモです。
今回は、跳ね上がった頂点の一瞬が一番ブレの少ない瞬間だったので、
そこを狙いシャッターを切り続けました。
それと、ブレ止めの隠し技として走る向きと逆方向へ一瞬レンズを振り撮影しました。

手ぶれ補正レンズの話
以前、夕刻の頃、
揺れる吊り橋の上からニコンの24~120mmVRレンズ(手ぶれ補正レンズ)を取り付け、
恐る恐るシャッタースピード1/8秒で撮影したことがある。
流石に吊り橋の上では無理かろうと思ったのだが、帰宅後モニターを見て驚いた。
見事にブレを抑えていたのである。
当時、Nikonは手ブレ防止効果3段分と公表していたが、
これは控えめな数字で実際は4段分の補正があるように思えたのである。
今回のクネクネ道を疾走するバスの揺れも相当なものだが(カメラブレと被写体ブレの合体)、
鼻歌交じりでブレを克服出来るとふんだのです。
カメラメーカーは違っても、
躊躇していた手持ち撮影でも手ぶれ補正レンズ付ならば
易々とシャッターが切れてしまう世界が広がってきたのです。
ただし、限度はお忘れなく・・・。

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/1000秒,絞りF6.7、ISO400。

使用機材
Canon EOS 30D、24~105mmISズームレンズ(40ミリで使用)。

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

紅葉はじめ2009.11.25

秋風が彩りを運んでくる頃、虫たちを探しに近場のフィールドへ出掛けた。
木の葉を揺らす風も少し肌寒いためか、
虫たちの姿もめっきり少なくなった公園をプラリプラリと探索していると、
赤く色づきはじめたイロハモミジが目に留まった。
控えめな紅葉はじめをしばし眺め、
明日はあのカメラで挑んでみるのもいいかな・・・、と、
思案しながら再び虫たちを探しに歩きはじめた。 

この時の撮影技法
「秋のはじめ」の味わいを出すために一番気を遣ったのは背景の佇まいです。
主役を際だたせるための背景はとても重要で、
なかでも光の強弱がキーポイントだと思っています。
苔の生えた幹のしっとりとした質感、
そして画の左端に遠景を少しだけ取り入れて、
明るい光のアクセントで「秋のはじまり」感を表現してみました。
隠し味として低速シャッター(1/4秒)で葉っぱをぶらし、
心地よい空間を表現してみましたが如何でしょうか?
有名な紅葉名所だけではなく、
身近な場所でじっくりと時間をかけて独り占め出来る空間を見つけ出すことこそ、
写真撮影の醍醐味のひとつではないでしょうか。

解像度の話
このデジタルバック(CCD解像度3900万画素、有効画素数7216×5412ピクセル)は
高細密な画像データが得られ大伸ばし時にその威力を発揮します。
デジタル一眼レフタイプ(2000万画素クラス)より撮像素子が一回り大きいので、
その圧倒的な情報量がもたらす質感描写はさらに一段高いレベルにあろといえます。
今回の写真もモニターで拡大して見ると「オッ!」と声を発するほど葉っぱの一枚一枚見事に再現され、
その豊かな階調の美しさに感動すら覚えてしまいます。
ただし、ご存じのとおりモニターの解像度は72dpiで表示されるため、
この写真の大きさ(72dpi,20cm×15cm)まで縮小してしまうと、
その良さをモニターでは確認出来ないのは残念ですが。

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/4秒,絞りF22、ISO100。

使用機材
Mamiya RZ67 PROⅡD、M140mmレンズ,デジタルバックPHASE ONE P45+,Gitzo大型三脚、レリーズ。

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

山水(称名滝と紅葉)2009.11.13

この場所に着いたのは午後4時を少し回っていて、
称名滝が雨でボンヤリと浮かびあがっていた。
暫くすると薄暮の柔らかな光が紅葉をよりいっそう艶かに色づけして浮かびあがってきた。
私はこの時間帯の妖艶な光がたまらなく好きで、
この一瞬のためにひたすら待ち受けるのである。
狙いは神宿る山水。

称名滝
富山県中新川群立山町にあり、
立山連峰を源流とする滝で日本最大落差(350m)を誇り「日本の滝百選」に入る。

この時の撮影技法
霧雨と瀑布の水しぶきでカメラはずぶ濡れ状態になるので、
カメラを守るビニール袋、タオルなどが必須です。
薄暮の時間帯は光の陰影や色温度などが複雑に絡み合い刻々と表情が変化します。
その一瞬一瞬で閃いたイメージを如何に具現化するかがポイントです。
この時はスローシャッターで滝の流れを表現したかったので三脚を使用。
ビニール越しで構図を決めたらレリーズの直前にレンズの覆いをはずします。
露光中は水しぶきが架かるので何度もレンズをせっせと拭かなければならないので、
水を良く吸い取るタオルなどが必須です。風景写真の極意は「待ちの忍耐」と「イマジネーション」、
そして僅かな変化を見逃さない集中力ではないでしょうか。

機材故障の話
先日、松島に取材で出掛けた折、
カメラマン人生で初めて2台同時にカメラのトラブルが発生しました。
まずCanon 5DMarkⅡにErr30がモニターに表示され撮影不能。
Canon40DはAFが故障。同行の編集者達の顔が一瞬蒼くなりましたが、
幸い予備機のNikonは何の問題もなく最後まで順調に働いてくれました。
プロとして何年かに一度の故障に備えたえず予備機材を携帯するのですが、
それにしてもデジタルカメラに移行してから故障の頻度が多くなり、
肩にかかるカメラバックが重たいことよ。

カメラ設定
露出設定マニュアル、シャッタースピード1/4秒,絞りF16、ISO400。

使用機材
Canon 1Ds MarkⅡ、24~105ミリISレンズ(55ミリで使用)。

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家