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AKIRA OKAJIMA 岡島朗
有限会社楽脳 取締役
某大手コンピュータ関連出版社で編集者として活躍、のちに映像企画制作・テレビ番組制作などを主たる事業とする「楽脳(らくのう)」を石井忍氏とともに設立。パソコン、インターネット、テレビ、芸能と守備範囲は広いが、特に映画関連の業務が多いこともあり映画に造詣が深い。

「ベジャール、そしてバレエはつづく」2010.10.19

フランスにいる映画関係の友人が、「日本ではあまり感じなかったが、オペラとバレエはクリエイティブに関係する職業人の教養としてすごく重要だ」という話をしてくれたことがあります。
そんな彼が薦めてくれたのが、モーリス・ベジャールのバレエ団に所属するジル・ロマンでした。

モーリス・ベジャールは、日本でも多くのファンを持つ振り付け家。
歌舞伎界とも深い交流を持ったことでもよく知られています。
2007年、その死はあまりにも突然で世界を驚かせました。

このドキュメンタリームービーは、ベジャール亡き後、ベジャール・バレエ・ローザンヌを継ぐことになった団員たちと、自他ともにその後継者と認められたジル・ロマンを追っています。
巨大な星を失ったあと、その志を継ぐことがどういうことなのか。
この作品は、ジルの苦悩を中心に、新しい作品を作り出そうとする団員たちの葛藤をよく現しています。

この作品を見ながら思い出したのが、「ウミガメのスープ」の話でした。
論理ゲームを代表するひとつである「ウミガメのスープ」は、ご存知のかたも多いと思います。
30分で解ければ、FBIにすぐにでも入れるとも言われていますね。

「ある男がレストランで”ウミガメのスープ”を注文して、出てきたスープをひとくち飲んだあと、コックに”これは本当にウミガメのスープですね”と聞き、その30分後にその男は自殺しました。なぜでしょう?」というものです。

複数人で行い、その原因を追求するのにYES/NOでしか答えられないという制約がつきます。
どれほど優秀な集団で行っていても、しばらくすると聞こうとする質問が無くなってしまうこのゲームは、いまでもgoogleやマイクロソフトの社員たちの間で、ときどき行われているそうです。

「ウミガメのスープ」では、答えがわからない質問をすることがとても難しいということが実感できるのですが、上記のジルは常に答えのない質問を考えています。
答えは、身体からしか出てきません。この過酷な訓練を経た団員が見つけたものは何か。
わかりやすくて、耳障りのいい答えを求めがちなときに観たい上質のドキュメンタリームービーです。

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AKIRA OKAJIMA/岡島朗
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『アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~』2010.09.21

知り合いのテレビディレクターが最近観た作品の中で一番面白かったと教えてくれたのがこの作品です。

ヘヴィーメタルバンド、アンヴィルを追ったドキュメンタリームービーです。
アンヴィルはかつて『メタル・オン・メタル』などの伝説的なアルバムを発売しますが、結局メジャー音楽シーンで活躍することがないまま四半世紀以上が経ちました。
しかしリップスをはじめとしたメンバーに、ロックの炎は消えていません。
ケータリングサービスの仕事をしながら、音楽を続けています。
その姿は、家族からみれば、「夢を追っている」というにはあまりにも残酷で熾烈な姿に映ります。
なぜ続けるのか、なんのために続けるのか?

そんな彼らに、ワールドツアーの話が舞い込みます。
ヨーロッパのロックフェス出演を中心としたツアーは、しかし、彼らに50歳の現実と音楽シーンの移り変わりを実感させるものなってしまいます。
改めて彼らは自問することになります。
なぜ続けるのか、なんのために続けるのか?

それでも彼らは自己負担で作った最新アルバムを持って、メジャーレコード会社の門をノックします。
諦めないのではなく、諦められない男たちの生々しい人生。

作品の最後、彼らは日本のフェスから招聘を受けて来日します。
30年ぶりでした。
ヨーロッパツアーの悪夢から、5人しかいない会場のイメージが離れられないリップスが立った舞台から見た光景は・・・。
髪が薄くなり、顔や身体の肉がたれた50歳の男のロックな生き様でした。

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「ザ・カンヌ・プレイヤー」2010.08.17

知り合いの若い映画関係者から教えてもらった作品です。
ドキュメンタリームービーというと多少語弊があるかもしれませんが、実際のカンヌ映画祭を舞台に、老獪な映画プロデューサーのサイ・ラーナー氏が”ハッタリ”だけで映画作品の制作を進めていこうとする作品です。

映画が大好きなタクシー運転手、フランクを捕まえて「第2のヘミングウェイ」と名付けて、脚本家としていろいろな関係者に紹介し始めるところから”ハッタリ”がスタート。
サイは、自分が「かつての大プロデューサー」などと揶揄されていることを知っていますが、そこは映画祭期間中のカンヌなので、少し歩けばセレブに出くわす彼は躊躇することなくデニス・ホッパーに監督を依頼したり、ジョニー・デップに主演を交渉します。
そうしたセレブ本人が、”役者”として登場するシーンは思わず笑ってしまいますが、この映画の真骨頂は別のところにあると思います。

それは、プロデューサーの仕事とは何か、です。
しなやかでありながら、自分勝手。わがままでありながら、繊細に人のことを気遣う彼は、人たらしの魅力をいやというほどわかっていて、彼が語る企画(「カンヌ・マン」というこれも笑えるタイトルです)をみんながなぜか信じてしまうのです。
サイが、フランクに対して、かたちのないものを信じ込ませる人間が必要な素行を教え込むシーンなどは思わず唸ってしまいます。

物語は後半大きく展開していきますが、こうしたパロディ作品の中にも、アイロニカルに人間味を盛り込むセンスは素敵だと思ってしまいました。

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「ティモシー・リアリー」2010.07.06

先日、映画好きな編集者と話をしていて話題になったのが、この『ティモシー・リアリー』です。
いまの20代30代の方々には、ピンと来ないかもしれませんが、ヒッピー文化(S・ジョブズももちろんその中の重要なひとりですが)の洗礼を何らかの形で受けた人々にとっては、リスト上位の思想的牽引者です。

ポール・デイヴィス監督による、このドキュメンタリームービーは、リアリー自身の貴重なインタビューや伝説の祭典ヒューマン・ビーインの映像などを織り交ぜた構成。
ドラッグ文化や意識革命の実現方法など、当時の息吹のエッセンスを伝えようとしています。
インタビューでは、コンピュータによる新しい権力構造をイメージさせるような言説もあって、興味深いです。

しかしながら、冒頭の編集者とは、「まったく狂ったおじさんだった」とコメディ映画をみる感覚でこの作品を観たと盛り上がりました。
こんな大ボラ吹きいいよね、と。
そして、最後にこんな大ボラは、ありったけの真顔で吹かなければ伝わらないし、エンターテイナーとして立派だと他人事として笑いましたww。

それはともかくとして、この作品の最後、リアリーが亡くなった後の衝撃的な映像は必見です。
こういう作品があるから、ドキュメンタリームービーは面白いと思わされる1本です。

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AKIRA OKAJIMA/岡島朗
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『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』2010.05.11

このウェブサイトを読んでいるという知り合いの女性CMディレクターから薦められたのが、『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』です。

雑役人をしながら、数少ない知り合い以外と会話すらしない”引きこもり”の男は、死後に自室から発見された多くの絵画作品と小説の断章によって、20世紀後半を代表するアーティストのひとりとなりました。
ヘンリー・ダーガーの名前は、回顧展や画集などですでにご存知の方も多いでしょう。
アカデミー短編ドキュメンタリー受賞作家のジェシカ・ユーによるこのドキュメンタリー作品は、彼の作品世界を紹介しながら、シカゴで暮らした時代の”彼の目撃者”によるインタビューによって構成されています。

急激に発展するリアルワールド=都市のなかで、他人との関係を遮断して、自分が築いたバーチャルワールド=非現実な王国にだけ居場所を見出した彼の姿は、奇異に映る反面、とても現代的です。
彼がその居場所で生み出したヴィヴィアンガールズと名づけられた少女たちは、とてもナイーブでセンチメンタルで、そして何よりも怒っているように見えます。

彼の物語は、ジェシカ・ユーによってアニメーションになって本作の中で現実世界にトレースされました。
ダコタ・ファニングのナレーションがついた、そのシーンだけでも、観る価値は十分にある力作です。

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