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AKIRA OKAJIMA 岡島朗
有限会社楽脳 取締役
某大手コンピュータ関連出版社で編集者として活躍、のちに映像企画制作・テレビ番組制作などを主たる事業とする「楽脳(らくのう)」を石井忍氏とともに設立。パソコン、インターネット、テレビ、芸能と守備範囲は広いが、特に映画関連の業務が多いこともあり映画に造詣が深い。

バックドロップ・クルディスタン2010.03.16

この世界には2種類の人間がいる。
難民とそうでない人々。
そう言ったら、あまりにも乱暴でしょうか。

今回ご紹介するドキュメンタリームービーは、
2004年の制作当時24歳の若者・野本大監督が体当たりで挑んだ作品
『バックドロップ・クルディスタン』。

クルド人という民族やその歴史背景は、ぜひこの作品をご覧いただいたほうがいいのですが、トルコとイラク・シリア・イランにまたがる地域を中心に住む、推定3000万人ほどの民族です。
自国を持たない世界最大の少数民族と言われています。
このクルド人のある一家が、日本で難民の指定を受けることが出来ず、トルコへの強制送還か第三国への出国という事態に局面したところから映画は始まります。
トルコへの帰国を拒み、東京・渋谷の国連大学前で座り込みをはじめる一家。
若い監督は、カメラの前で起こる事態に戸惑いを深めていきます。
なぜ、この家族は、生まれた国へ帰りたくないのか。
なぜ日本は、この家族に難民指定をしないのか。
この作品は、そうした戸惑いに忠実であることによって成功しています。
監督の個人的な想いから出発した旅は、結末まで個人的に綴られていきます。

この世界には、乱暴に分けられない家族と個人がいる。
そのことを、改めて教えられる作品です。

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AKIRA OKAJIMA/岡島朗
有限会社楽脳 取締役

遠足 Der Ausflug2010.02.12

それまで気にもとめていなかったことが、
あるときどうしようもなく気になることがあります。
たとえば、顔の中心に隆起している”鼻”の存在のように。

もし、芸術家というものが、
その気にとまったものを
”美”として表現できる人種だと
定義してみることもできるかもしれません。

このドキュメンタリームービーは、
ウィーンにある「芸術家の家」での生活を撮影したものです。

老齢な芸術家だちが、共同生活を行っています。
そして、彼らは、精神疾患の”患者”でもあります。
タイトルである「遠足」とは、
彼らが、開催される展覧会でプラハを訪れる道中シーンから由来されていますが、
もう少し踏み込んで読み解くこともできるいいタイトルです。

気にとめることができる才能は、
日常の生活や社会での人々との交際との折り合いに、
ときどき軋轢を生み出すのかもしれません。

でも、この映画のなかで”美”が生み出される瞬間は、
あまりにもあっさりとしていています。
そのことに驚く実感を忘れたくないと思わせる作品でした。

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『いのちの食べかた』2010.01.13

毎回ドキュメンタリームービーを中心に取り上げさせていただいておりますが、
今年も引き続き、
大好きなドキュメンタリームービーを取り上げようと思っております。
よろしくお願いいたします。

さて、この『いのちの食べかた』は、すでにご存知の方も多いと思いますが、
2005年にドイツ/オーストリアで制作されたドキュメントムービーです。

牛や豚、鶏からリンゴやパプリカなどのさまざまな食材の生産過程を淡々としたタッチで描いた作品です。
淡々と、というのは、カメラが向けられた農場などで働く人々との会話のシーンはまったくなく、したがってテロップなども皆無です。
無言で昼食のサンドイッチを食べる飼育係の表情。
それは、昨今メディアで流通している農業を楽しむ”エコ謳歌”の人々の満面の笑みとは、あまりにも対極にあります。
病気ならないように次々に注射される雛や子豚、意図的に精子を奪取される雄牛、手際よく取り出される子牛、完全防備された格好で、農薬を散布される野菜。

不愉快な気分になる場面が多いはずですが、「食べ続ける」ことを余儀なくされた我々人間のエゴを皮肉る目線ではないことが徐々にわかってくると、不思議な感慨が残る作品です。

その感慨とは、開き直りではなく、「21世紀」が夢見た未来ではないことをはっきりわかったこの10年近くの現実へのものだったりするのかもしれません。

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アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生2009.09.11

雑誌『ローリング・ストーン』の表紙で、
一躍有名になった女流カメラマン、
アニー・リーボヴィッツを追ったドキュメンタリー・フィルムです。

裸体のジョン・レノンとオノ・ヨーコが抱き合う写真は、
20世紀を代表する1枚であることに異論をはさむ人はいないでしょう。

このフィルムでは、
『ローリング・ストーン』誌で発表した貴重な作品だけでなく、
編集長などの貴重なコメントも収録されています。

レンズの先に見えるセレブたちの、
あまりにも赤裸々な姿と、
それを可能にした彼女の秘密に迫ろうとしています。

でも、フィルム内で、彼女がもっとも赤裸々な姿になるのは、
子どもたちと戯れているときと同性の恋人と言われる
スーザン・ソンタグとの思い出を語る場面です。

『アメリカの神々』という傑作写真集とともに、
ぜひご覧下さい。

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チャールズ・ブコウウスキー オールド・パンク2009.08.19

『町でいちばんの美女』などで
酔いどれの小説家として日本に紹介された印象が強い
チャールズ・ブコウウスキー。

ですが、彼の真骨頂はやはり詩にあるような気がします。

そして、
さまざまな場所で行われた朗読のライヴではないでしょうか。

酒を片手に、やじを飛ばす観客と対峙しながら発せられる詩の数々。

このドキュメンタリーフィルムは、彼の半生を中心に、
自身のインタビューと朗読ライヴの模様、
彼を取り囲んだまわりの編集者など
スタッフの証言で構成されています。

「セックスとは、夜眠れないときにするものだ」という名言を持つ彼の、
貴重な童貞喪失のエピソードは最高ですが、
破天荒な一面だけでなく、
深い思惟の果てにみせる真摯な姿がとても印象的です。

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AKIRA OKAJIMA/岡島朗
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