YOUCHOOSE

about

HIDESHI OKI 沖秀史
株式会社USEN 音楽番組制作部長
500番組を超えるUSEN音楽放送の番組編成・制作を統括。洋楽、邦楽、CM制作ディレクターから、ネット動画サイト立ち上げなど、20年以上に渡って番組・コンテンツ制作に従事しているプロ中のプロ。温厚な人柄で音楽業界に極めて多くの人脈を持ち、自らドラマーでもある。

NO.1ロックドラマーを選ぶ(2)ラス・カンケル2010.06.01

いえいえ、それは違います。

NO.1ロックドラマー:ラス・カンケル
ベストトラック:Running On Empty

どこまでも続くハイウェイをバックに何故かドラムセットが写っている
ジャクソン・ブラウンの名盤「Running On Empty」。

このアルバム以前のジャケ写はジャクソン・ブラウンが必ず写っていました。
アーティスト本人が出ず、しかもバックバンドのメンバーが使う楽器が使われています。
これが意味するものは何か?

LPのブックレットを見ると実際にステージ上にこのドラムがセットされており、勇ましく叩く男がいます。少し禿げ上がったこの男がラス・カンケル。
70年代のアメリカにおいて代表的な存在であるセッション・ドラマーです。

ジャクソン・ブラウンはもとより、ボブ・ディラン、カーリー・サイモン、、リンダ・ロンシュタット、ジョニ・ミッチェル、キャロル・キング、など彼が参加したセッションは枚挙にいとまがありません。

彼は手数の多いドラマーでは決してありません。
しかし、フィルインなどを聴いていると、曲があるべき形の追求に非常にこだわりがあるように感じられます。
ヴォーカルを最大限に生かすには、別にここでフィルインがなくてもええんちゃうの?というようなこだわり。

ベストトラックとして上げさせてもらったタイトルチューンの「RUNNING ON EMPTY」などフィルインがホント最小限です。

趣味でバンドをやっていて4小節毎にフィルインを入れたがる私とは大違いです。

何をおいても彼のドラミングを表現するに私が最適であると思うのは

「仙人のようなエイトビートを叩く男」です。正に深みのある演奏。

この奥ゆかしさはどこからくるのか?生き様なのか?聴いてきた音楽のせいか?
それとも家庭環境か?それとも生まれ持っていたものなのか?

このアルバムが出た頃は、彼はおそらく30歳ぐらいであったはず。
当時10代半ばの私は、俺もそのぐらいので歳になれば人生経験も重ねているはず。
そしてそんなドラムが叩けるようになっているはず、と思っていたが40代半ばになってもそのような事はまったく訪れる気配すらない。。。

それにしも、このジャケットに写ったドラムセットって今気づいたけど左利き用のセットのような気がします。
ラス・カンケルは右利き。。
これを追求するとこれまでの仮説が覆されそうな気があするのでここでやめておきます。
象徴としてのドラムなのかなぁ?

よろしいでしょうか?平坂さん。

POSTED BY:
oki_image

HIDESHI OKI/沖秀史
株式会社USEN 放送企画統括部長

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い2010.05.06

ロイ・オービソンへのオマージュたっぷりの「You’re Only Lonely」の大ヒットから5年。
最近J.D.Souther(以下J.D.)の1984年作「Home by Dawn」をよく聴いている。
世の中のこのアルバムに対する評価がどのようなものかは知らないが気にせず言ってしまおう。
僕はこのアルバムが大好きです。
しかしなぜゆえこのアルバムが好きなんだろうか。。
ちょっとその検証をしてみようと思う。

まず、当時すぐ気づいた事柄としてはコロンビアからワーナーへ移籍していた、ということ。
普通大ヒットが出るとその次回作へのプレッシャーは相当なものだ。で、ここからは邪推だが。。。
「You’re Only Lonely」の大ヒットに気をよくしたコロンビアが彼に次回作を急かし、その対応にほとほと疲れたJ.D.はワーナーに移籍をしたのではないか、という仮説が成り立つ。

あと見た目で明らかに前作と違うのがジャケット。
前作ではワイシャツにネクタイ姿のJ.D.Southerが下を向いている哀愁ただようジャケットだったが、この「Home by Dawn」では得体の知れない女性とのツーショットであった。
この女性は当時私が所蔵していたLPのブックレットにも登場するのでジャケット写真のために呼ばれたモデルではなさそうである。ということは肩書は別としてが当時J.D.が心から愛した女性であり安らぎの求め先であったことは間違いない。

サウンド面ではどうか?
全編に聴かれるドラムサウンドは彼自身の手になるものである。
経費がなかったのか、アットホームなスタジオワークが狙いだったのかは不明だが、このドラミングも味があって非常によい。
一方でイーグルスのドン・ヘンリーやティモシー・B・シュミットがコーラスをしている曲があったり、リンダ・ロンシュタットとデュエットしている曲があったりとゴージャスな部分もある。
楽曲もほとんどがラブ・ソングであり彼の幸せ感を感じることが出来る。

結局このアルバムは非常にパーソナルなものではないか?ということにたどり着く。
アーティストのその時の精神状態(それがいい時であれ、悪いときであれ)がストレートに表されるアルバムを好きになることが多い僕です。

さて、こんな仮説を楽しんでいたら彼の来日公演を見る機会に恵まれた。

優しそうに一曲、一曲をリラックスした雰囲気で演奏する彼の顔を見て、あのジャケットの女性とは今でも一緒にいるのだろうか?とふと考えを巡らせしてしまった。

「You’re Only Lonely」は当然ながらが、彼が作詞作曲者に名を連ねるイーグルスの「Heartache Tonight」が聴けるなど楽しく、聴きごたえのある非常にいいライヴであった。

が、気がつくとライヴは「Home by Dawn」からの曲が全く演奏されないまま終わってしまった…

「Home by Dawn」で一緒に写っていた彼女にJ.D.は振られたのか?
幸せに満ちたプライベートな作品故、その幸せが終わると演奏すらもしない、という分り易いことなのか?

「別れた女が憎いから、彼女のために書いた歌なんて歌えるかいっ!」ってことか?

これは日本で言うところの「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ってことかなぁ〜?

以上、自分勝手な推測で書いておりますのであしからず。。。

でも僕がこのアルバムが好きなことには変わりはありません。

POSTED BY:
oki_image

HIDESHI OKI/沖秀史
株式会社USEN 放送企画統括部長

あの日から一年2010.04.23

ブラッディ・マリー。
それがカクテルの名前であることを高校生の僕は知らなかった。

この名前をバンドの名前にしたのは当時好きだった甲斐バンドのアルバムの中の曲名だったというのがその理由。
僕のアマチュアバンド歴において初めてオリジナル楽曲を演奏することになったのがこのブラッディ・マリーというグループ。
しかも後期のビートルズのようにライヴは一切やらず、友達の家に集まっては各自のオリジナルナンバーをアレンジし、録音することを楽しみとする自己満足バンドであった。
メンバーは僕を入れて3名。
各々がヴォーカル、ギター、ベース、ハーモニカ、ピアノなどを曲によって担当分けしていた。
基本は自分の作曲した曲は自分がアレンジし、ヴォーカルを担当する。残り二人に実際に演奏して聴かせてみせてアレンジをしていく。
当時4チャンネルのカセットマルチレコーダーに10曲を詰め込んだテープは今でも僕の宝物である。

 さて、導入が長くなってしまったがどうしてこのような書き出しになったのかは、改めてRCサクセション(以下、RC)の初期の3枚を改めて聴いて思い出したことがあるからだ。
この初期の3枚に共通して僕が抱くのが「郷愁」の2文字。
曲のイメージしかり、当時のRCのメンバーとレコード会社の微妙な関係値しかり。
G→Bmなど郷愁を誘うコード進行、maj7などのコードの響きがかもし出すそこはかとない淋しさ。。
今でこそロックのRCと言われていた彼らが、デビュー当時のフォークバンドっぽい時期に作り出した楽曲が生み出したこの郷愁は、後にロックのバンドと言われた彼らのレパートリーの中にも多数存在する。

当時の僕はそんな郷愁の虜になってしまった一人だ。
「金儲けのために生まれてきたんじゃないぜ」「ヒッピーに捧ぐ」に表現される切なさは後に「いい事ばかりはありゃしない」「Johnny Blue」などにも受け継がれていると感じる。
僕の最初のオリジナルバンド、ブラッディ・マリーを結成した頃にはまだRCサクセションの初期の3枚を知る前であったが、僕達のオリジナルソングのアレンジと微妙に似ている曲が多かったので、僕達は勝手に「自分達のやっていることは間違っていない」と勝手に思っていた。

「ヒッピーに捧ぐ」は「お別れは突然やってきて」という歌い出しから始まる。
まさに突然やってきたこのお別れから早一年。僕は毎年あの日の郷愁を思い出すだろう。

POSTED BY:
oki_image

HIDESHI OKI/沖秀史
株式会社USEN 放送企画統括部長

車はメンバーが変わると新車になる2010.03.30

「カーズってメンバーが変わって新生カーズになってたんや。。」
「で、何と言うグループになったんだすか}
「ニューカーズ。。。」

久しぶりにカーズのアルバムを引っ張り出して聴いてみた。

カーズのデビューアルバムを初めて聴いた時の印象はよく覚えている。
「とても不思議な香りがするバンドだな…」。
このバンドがイギリス出身ならばそれも何となく理解することができる。
しかし、彼の出身はアメリカ。
おそらく「ニューウェーブ」の範疇として彼らはカテゴライズされてたに違いないと思う。
しかもリック・オケイセックの風貌と相まってかなりのキワモノ的に扱われたに違いない。

彼らのサウンドアプローチはポップなセンスに緻密な音作り。
しかも意外にエッジの効いたギターサウンドが特色。
しかしながらその荒削りさゆえに本来のバンドの力量がイマイチ、
レコードには反映さえていなかったように思う。
そこで登場するのがロバート・ジョン“マット”ランジ。

1980発表のAC/DC 「Back In Black」。
この怪物アルバムでその才能をいかんなく発揮したロバート・ジョン“マット”ランジだが、彼とカーズが出会うことでまさにマジックが起こり大ヒット作を生み出す。

それが「ユー・マイト・シンク」「ドライヴ」「マジック」など数多くのヒット曲が収録された大ヒットアルバムである5作目の「ハートビート・シティ」。
ソリッドでタイト、しかも分かりやすいポップ性に富んだ作品である。

幾重にも重ねられるコーラスなどは彼の独壇場で、のちのデフ・レパードやブライアン・アダムスのアルバムにもその特色を聴くことができる。

さて、そんなカーズの「ドライヴ」を聴いていたら、この曲でヴォーカルをとっていたベーシストのベンジャミン・オールが亡くなったことを思い出しました。
調べてみると、2000年、今年が10周忌というわけです。
そんな彼らの周辺を調べているとカーズはリック・オケイセック以外のメンバーで数年前に再結成をしていたのですね(!)。
全然知りませんでした。しかもヴォーカルにトッド・ラングレン(!)、
名前もカーズ改め「ニュー・カーズ」(!!)。。
実際に聴いてみると「ええやん!」

次々と飛び出す事実に頭がクラクラの水曜の午後でした。。

POSTED BY:
oki_image

HIDESHI OKI/沖秀史
株式会社USEN 放送企画統括部長

決心する日2010.02.08

「見るからにアメリカの庶民という感じがするなぁ。」
「元阪神のバースもギター弾くんですね」
「あほぅ〜。ボブ・シーガーじゃ。」

一行目と三行目は私。二行目は、業界のとある若者A君。

この年齢にもなると色んな場面で「立ち向かう」ということが起こります。
この「立ち向かう」ということにおいて人は様々な材料を集め、検討し、
心を決め、そして最後に「立ち向かう日」を迎えます。

しかし私にとって「立ち向かう」ということにおいて大事なのは「その日」ではなく
その事を「決心する日」なのです。そしてその決心する時間帯はその殆どが
深夜であり、一人であり、飲み屋であることが多いです。。。

さて、とあることを決心しなければならない夜に偶然店で耳に入って来た曲
がボブ・シーガーの「Against the Wind」。「I’m still runnin’ Against the wind」
と繰り返して語りかけてくるようなリフレインに後押しされるようにあっさりと
心を決めてしまいました。(決心した内容はここでは触れませんが、他人から
見たら笑ってしまうような内容です。。)

ボブ・シーガーは下積みが長く、ルックスも含めて中産階級の匂いがプンプンします。
すべての彼の歌を知っているわけではないが、彼の歌に描かれる風景は中産階級の人々が
日常生活の中で体験する苦労やささやな幸せと言ったものが多い。
アメリカの平均的な庶民暮らしを代弁しているようでもある。
確かに「ビバリー・ヒルズ・コップ2」の主題歌のビデオクリップ
で彼を見た時はこのクリップ全盛の時代にジーパンに黒っぽい
ジャケットという彼の姿に驚いたものです。それよりも彼らしくない曲に一番驚いたが。

立ち向かうといことは、対する物事からの風を向かいに受け、走り
続けるということだと思います。

映画「フォレスト・ガンプ」。トム・ハンクス扮するフォレストは、身の回りの様々なことを
ふり払うように突然家を出てアメリカ中を走り続けます。そんなシーンのバックで流れている
この「Against the Wind」も、とてもいい使い方だなと映画館で感心したのも記憶に残っています。

まさに広大なアメリカの大地をゆったりと走り続けている風景。

Youtubeなどでも近年の彼のライブ映像をいくつか見ることができますが、風貌は相変わらず
ですが、元気にこの曲を歌っています。そして観客も一緒になって口ずさんでいます。

彼こそがまさに未だに走り続けている姿を見てるからこそこの歌が真実であ
ることを証明しているようでもある。
アメリカの庶民によく訪れるありふたれ風景をふつうの人達のために歌う。

「風に向かって 俺はまだ 走り続けている」

参りました。。。

POSTED BY:
oki_image

HIDESHI OKI/沖秀史
株式会社USEN 音楽番組制作部長