沖さん、いつもシブいところから選んできますね。
シブさではこちらも負けません。
NO.1ロックドラマー:ダニエル・セラフィン/Chicago
ベストトラックアルバム:Chicago lll
「Chicago」は1969年のデビュー以来メンバーがコロコロ変わるものの、いまだに現役。
ローリングストーンズ、エアロスミスと並んで、3大長寿じじいバンドと言われています。
ダニエル・セラフィンは、ロックを基調としながらも、しなやかな手首から織り出される細かなロールやシンバルさばきが光る、いわばジャズ出身のロックドラマーとでも言いましょうか。
デビューから19枚目のアルバムまでメンバーとして活動していたようですが、注目したいのは、特に3枚目あたりまでの初期です。
もともとギターがサウンドの中心であるというロックの概念を変え、「奇跡!ジャズとロックの融合」と言わしめたバンドがこの「Chicago」。
一般的には、通常のロックバンドユニットに「サックス」「トランペット」「トロンボーン」という管楽器プレイヤーをレギュラー陣に加えたことが「ジャズとロックの融合=新しい」という評判を生んだとされています。
しかし、実はそうではありません。
ダニエル・セラフィンのドラムこそが、その新しいサウンドを誕生させた張本人なのです。
そのへん少し解説いたしましょう。
<1>◎特に初期の頃は、音楽的なコンセプトがたいへん社会的で(”流血の日”のように反戦的なもの、”いったい現実を把握している者はいるだろうか?”のように社会哲学的なものなど)、世界観としては極めてロックである。
<2>◎ホーンセクションのアレンジが度を超えたテンション(というか、ほとんど不協和音)なうえに、攻撃的で乱暴な演奏スタイル。
本来ジャージーな雰囲気を作るべき楽器が、逆にジャズらしくないサウンドを生み出している。
<3>◎曲調としては、実にポップな色合いのものが多い(QUESTIONS 67 AND 68、MAKE ME SMILE、LOWDOWNなどなど)。
アレンジ次第では日本の歌謡曲としても通用するほどのポップスである。
つまり、ほっておくと「少々反社会的で、ラッパのやかましいポップ・ロック」という、音楽的には実に安っぽい感じのするバンドになってしまうわけであります。
そんなバンドを崇高な「ジャズとロックの融合」という領域にまで押し上げたのが、ダニエル・セラフィンなのです。
フツーのジャズドラマーには、この乱暴なラッパポップロックバンドなど全く務まりません。
そんなのは例えて言うならば、サッカーのフォワードにカーリングの選手を起用するようなもんです。
また、ベタベタの8ビートドラマーでは、バンドがさらに下品になってしまいます。
しかも、ロバートラム(Keyboard)、テリーキャス(Guitar)、ピーターセテラ(Bass)といったリズムに厳しいテクニシャン揃い、一寸の狂いもない正確なビートを刻むドラマーでなければなりません。
「なぜダニエルが…」お解りいただけましたでしょうか。
ジャズの基本をばっちりマスターしていて、しかもロックのニュアンスがよくわかっていて、極めて正確なリズムを刻む、なかなかいやしませんよ、こんな人。
しかし、この<1>+<2>+<3>+ダニエルのドラム=「ジャズとロックの融合」という方程式は、曲の内容やアレンジ、メロディなどの微妙なバランスの上に成り立っており、”奇跡の融合”はあまり長くは続きませんでした。
個人的には、5枚目(Saturday In The Parkなど収録)ですでにフツーのロックバンド、それ以降ではもはやありきたりのバラードポップス楽団に”成り下がってしまった”というのが我が感想です。
まあそれはいいとして、少なくともデビューから3作(すべて2枚組なため、合計6枚)ロック史上に輝く最高傑作が誕生したわけですから、それでいいじゃありませんか。
少々余談になりますが、上記の「微妙なバランス」というのは、他の同類とされるバンドと比べるとよくわかります。
◎Blood Sweat & Tears(BS&T)
同じくホーンセクションを持つバンドで、Chicagoの親戚みたいなもんですが、こちらのほうが先輩にあたります。
良く言えばChicagoよりも”大人っぽい”感じもしますが、ロックバンドとしては妙に安定しすぎていて、危なっかしさがなさすぎる。少々田舎のにおいもしたりして。
そういう意味で、ロックバンドとしてのバランスが取れているとは言えません。
興業的にも圧倒的にChicagoに軍配が上がります。
◎Chase
こちらはトランペット3本というクレイジーな構成で、一時期はChicagoを食った!という感もありました。
しかしながら「ペット3本」で押しまくるというスタイルが、そもそも”一発の打ち上げ花火”…はじめからバランスを欠いたものでした。
いかんせん長続きせず、「Get It On(黒い炎)」1曲で終わり。
そういう意味ではダンディ坂野や鼠先輩と同じです。
完全にChicagoの勝ちです。
「微妙なバランス」…もしジョン・レノンとポール・マッカートニーが出会っていなかったら。。。
あの数年間に生まれたThe Beatles数々の作品も存在しなかったわけで。
「ジャズとロックの融合」という奇跡と3枚の最高傑作アルバムを作ったChicagoに、ダニエル・セラフィン。
んー、感無量。