世界的な時差はあるにせよ、ティーンエイジャーの無防備な、ナイーブなエネルギーが作りだした60年代の革命幻想も、70年代中ごろに入ると次第にゆるゆるの普通の日常の風景の中に埋没してゆきました。音楽においても、あの思い出したくもない「低能サタデーナイトフィーバー」と、「馬鹿スタジアムロック」という「消費者として十分に飼いならされたティーンエイジャー」ばっかり、という状況になってきました。
そんな時突然やってきたのが「PUNK」です。ニューヨークとロンドン両方からやってきたこの新しい波ですが、私はロンドンというかイギリスのほうに夢中になりました。1977年の初めのころと思いますが、Sex Pistolsのことを最初に知ったのは朝日新聞(と思う)の写真入りの記事でした。
「今ロンドンでパンクロックが人気。すべてに対して怒りをぶつけ、何も信じない若者たち。髪の毛を短く乱雑に切って、色を染め、Tシャツをぼろぼろにして、安全ピンをピアスにしている」みたいな内容だったと思います。それを読んだ時実はすごく嫌な感じがしたのを覚えています。「なんだよ、今更ストレートな怒りを表現したり、反体制の不良ぶったり、そんなことで何かが変わると思ってんの。馬鹿じゃん。」という屈折した感覚でした。
しばらくして、よく通っていたイギリスのトラディショナルフォークやプログレッシブロックを扱っていたレコード屋の隅に見たことのない変な、でもやけにカッコイイジャケットのレコードが置いてあって、それがSex Pistolsのこのアルバムでした。とにかく、見たことないデザイン、でも強烈な光を放っていて、あのいやな印象がありながら、結局買いました。そして家で聞いてみたら、もう何もかも全てが分かりました!って感じでした。不良がどうのこうのとか、ロックンロールの復権とか、全然筋違いの、本当に新しい、新しい人類が出現した、とでも言いたくなるような、すごい、かっこいい音でした。
直感的に感じたのは、まさにこの「新しさ」なんですが、その新しさとは「社会や歴史から切り離されている」スカスカした感じです。
その頃はこのことをうまく言えなかったんですが、今ならこう表現できるでしょう。
つまりロックが「反体制」だったのに対して、PUNKは「脱体制、脱社会」。もう反対すらしない。それも無効。社会の底が抜けた感じ。
「俺はほとんど空っぽ」「手に入れ方は知っているが、何がほしいのか分からない」という歌詞、にそのことがよく表れています。
この後、BUZZCOCKS,ADVERTS,WIREなどのPUNKから、80年代に入っての「NEW WAVE」に至る「脱社会的存在となった大量のティーンエイジャーが音楽、映画、文学、ファッションなどで猛威をふるう」、つまり今に至る時代が続いたという気がします。
SEX PISTOLSのジョニーロットンが「ロックは死んだ」と言ったのは有名ですが、それはこういうことなんだと思います。またジョンレノンが殺された時多くの人が「悲しい」「怒りを覚える」「時代が終わった」などの感傷的な言葉を口にする中、彼は顔をしかめて「何も変わんないさ」と言ったのが印象的でした。
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HIKARU MACHIDA/町田光
NFL JAPAN 代表取締役社長 立命館大学客員教授 早稲田大学講師
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