前回のイギ—ポップ&ストゥージズで、「彼らにあのような音を作らせたのは1969年・・」という言い方をしました。
音楽、(映画、文学なども・・)は、もちろん作者の世界観、価値観、人間性、思想、感性、問題意識などの「主体」がそれを表現しているわけですが、同時にその主体は、それが 存在している時代背景や、社会環境に大きく作用されていることは言うまでもないでしょう。
そういう時代性を超えた普遍的な作品が本物だという考え方が存在しますし、そのことはひとつの真実でしょう。しかし私はその「主体」が社会環境のるつぼの中に投げ込まれ 激しい波に飲み込まれ、ぐるぐる回ってる時の、恐怖、焦り、興奮、わけのわからない良い感じ、俺だけは解ってるぜ、あいつらみんな馬鹿、今日は世界征服したぞっていう感覚、高揚感、逆に、すんません、降参です、最悪です、もう死んじまいたいっていう情けなさ、徒労感や絶望感などなどの、思い込み、粋がり、前のめり、駄々っ子、かっこつけ、などの真剣なおっちょこちょい、も大好きです。
「Nnuggets」つまり「山師」とタイトルされたこのCD-BOXは、元々1972年に後のパティスミスのバンドのギタリスト、レニー・ケイが編集した1965年から1968年の3年間にリリースされたアメリカのティーンエイジャーのバンドたちのシングル盤のコンピレーションアルバムをもとに、CD4枚組に拡大して再発したものです。日本ではもちろん、一般的には全く無名の、限りなく素人に近いバンドばかりです。
ここではアメリカ中から集められた地方の「おれは最高だぜ」バンドの、「世界征服できるぞ」という夢というか革命幻想に満ち溢れたいい音があふれています。彼らは「Garage band」–親父の車庫で練習してたからとか「Punk」-馬鹿、くず、などと呼ばれていました。内容は、つまらない学校、うるさい親、言うことを聞かない彼女などへの不満を叫んでるものから、「紫と緑色の声が木々の間をすべり抜け、窓の隙間をこじ開け、おれの頭に入りこむ!!」といったサイケデリックな幻想まで、まあとにかく様々です。音楽はストーンズ、フー、ヤードバーズなどのイギリスのビートグループまんまから、そこにインド風の味付け、あるいはフォークのオーガニックな感じなど、これもまた多種多様。ティーンエイジャーたちの必死の自己表現は、自己満足、自己肥大の産物とも言えるし、でもそこに必死で自分の存在証明をしたいという切ない想いも感じたりもします。
実はこのオリジナルのNuggetsが1972年に発売されてから、今に至るまで、こういったティーンエイジャーのバンドのレコードの発掘作業は続いており、それはアメリカ、イギリスはもちろん、最近ではボリビア、ペルー、ウルグアイからカンボジアなどの辺境(失礼)に至るまで、世界中に広がっています。そのアルバム数はアナログ、CD合わせると少なくとも1000種類以上は出ているでしょう。私はそのうち9割くらいは持ってると思いますが、とにかく万華鏡、すばらしいです。
聞けば聞くほど結局ロックって、これ、いわゆる「初期衝動」なんだと思います。
世界中でこのいわば「バンドブーム」が到来した1960年代後半、その時代背景については次回。
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HIKARU MACHIDA/町田光
NFL JAPAN 代表取締役社長 立命館大学客員教授 早稲田大学講師
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