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HIDEO SAITO 斎藤英夫
音楽プロデューサー・作曲家・編曲家・ミュージシャン
森高千里や夏川りみなどの作品やプロデュースで知られる。 発表楽曲数は約190曲、代表曲はレコード大賞最優秀編曲賞ノミネート曲「渡良瀬橋」森高千里(’92)、レコード大賞新人賞獲得曲「今度私どこか連れていって下さいよ」加藤紀子(’93)など。日本テレビ「歌スタ!!」出演中。

森高千里「雨」 ―シングルを逃した作曲家―2010.01.18

昨年末、森高千里さんがテレビで「雨」を歌っていた。
某男性シンガーのデュエット・アルバムに収録されたとの事・・・。

アルバムのレコーディングと並行して、シングル予定の曲の詞を、本人が悪戦苦闘して書いていた。
作詞は歌手本人が手がける事になっているために、レコーディングのたびに(特にアルバム)、多大な負担がかかる。
ファイル名「90-14」のこの曲は、曲調に合う内容の詞がなかなか出来ず、すでに3〜4編の詞が没になっていた。

並行して、ディレクターS氏がアルバム収録用に「弾き語りでいいから、適当にアレンジしておいて」と、M君のデモ曲の入ったカセット・テープをウチに置いて行った。
聴いてみると、フォークっぽくはあるが、哀愁のあるバラードで“佳曲”だった。
「これは料理次第で良い物になる」という確信めいたものを感じ、アレンジにとりかかった。
後日「この曲は、絶対にいいですよ」とアレンジ・デモをスタジオで披露した。
一同大変気に入り、その場のディスカッションで間奏を付ける事になった。映画のサウンドトラックの様なストリングスが浮かび、その場で間奏を仕上げた。詞もスムーズに付いた。
前述した、詞で難航していた曲よりスムーズに仕上がった分、勢いがあり、シングルに向いている気がして、私の進言で(ディレクターS氏も同感だったらしく)、このバラード曲をシングルに差し替える事になった。

ちなみに、これによりシングルカットを逃した曲は、私の曲で、「あるOLの青春」としてアルバム曲に「格下げ」になった(笑)。
シングルを1曲逃したのは大変残念だったが、後に歌い継がれる名曲「雨」を世に出せたのは、サウンド・プロデューサー冥利につきる。

「あるOLの青春」用に作られ、没になった詞の中に、ビートルズの「When I’m Sixty-Four」のようなストーリーの物があった。これが後に日の目を見る事になる・・・。(続く)

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中島みゆき「歌暦」(敬称略)2009.08.17

「中島みゆき」と言えば「夜会」を思い出す方が多いと思う。

「中島みゆき」の、ただのコンサート以上のステージを演出する、というコンセプトは、「夜会」が初めてではない。

かつて両国国技館でライブ・レコーディングをメインの目的とした、「歌暦」というコンサートを行った。

’86年12月18日から21日までの4日連続で国技館を満席にした。

コンサートの模様は、本番前のリハーサルも含め、全てマルチ・トラックでレコーディングされた。

演奏もコンサートとしての見栄えよりも、レコーディングとしてのクオリティーに重きが置かれた。

プレヤーは当時(そして今現在でも)売れっ子のスタジオ・ミュージシャン連中。楽器や機材も音質重視のレコーディング仕様。ギタリストは曲ごとに音色を変えるために、7本ものギターにかこまれ、曲ごとのローテーションに従い、次々とかつぎ変える。

「打ち込み」がメインの曲ためには、「打ち込みネタ」を再生するためのマルチ・トラック・レコーダーがスタンバイしている。都合3台のマルチ・トラック・レコーダーが使用された。当時の山下達郎バンドのギタリストであり、著名なアレンジャーである、椎名和夫氏が総合プロデュースをした。

コンサート終了後のクリスマスの日、都内にある「一口坂スタジオ」のロビーでクリスマス・ケーキを囲んで、ささやかなパーティーが開かれた。

「中島みゆき」とそのスタッフが、「歌暦」の最終仕上げである、ミックスを行っていたのだ。

私は同じ日に隣のスタジオで新人のアイドル女性シンガーのレコーディングをしていた。その後、私の「代表作」といわれる事になるシンガーの「夢の終わり」という曲である…。

ちなみに、「中島みゆき/歌暦(’86)」のギタリストは椎名氏と私である。

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夏川りみ #3(敬称略)2009.07.16

アンドレア・ボチェッリとのデュエット、しかもイタリア語で、というかなり大きな負荷をかけられた夏川さんは、果たして、ロス入りした。デビッド・フォスター、アンドレア・ボチェッリ両氏の歓迎を受け、いざレコーディングに。
そこにレコーディング・エンジニアとして控えていたのは、これまた超大物、フンベルト・ガティカ氏。かの「We Are The World / USA for AFRICA」で、クインシー・ジョーンズの片腕としてタッグを組んでいたエンジニアである。同行した(日本の)プロデューサーの方は大感激。夏川さんは「誰それ?」相変わらず天真爛漫である。肝心のレコーディングは、イタリア語もまったく問題無く、フォスター、ボチェッリ両氏とも大絶賛だったそうだ。
アルバム「想い風」にボーナストラックとして収められている「ソモス・ノビオス~愛の夢」、是非ご一聴願いたい。我々が普段知っている夏川さんとはまったく別の、「日本が誇れるシンガー」がそこにいる。ワタシの場合聴いたとたん笑ってしまった(あまりにハマっていて、しかも異次元の凄さを感じたからにほかならない…)。
さて、ここからはあくまでワタクシの個人的な憶測の域を出ないので悪しからず。
それまでの音楽的範疇とはまったく違う音楽を表現している自身に接し、超大物の皆さんから絶賛され、当然、目からウロコの100枚や200枚落ちるであろう経験をした夏川さん。この「事件」をきっかけに開眼したとしても、誰が責められよう。上記アルバムのレコーディングが2006年前半から始まり、発売が翌2007年3月に控えていた時期に、既に報じられている通り、2007年初頭にある決意をしたとしても…。

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「アンドレア・ボチェッリ(夏川りみ #2)」2009.07.08

アンドレア・ボチェッリと言う、イタリアのテノール歌手をご存知だろうか?
イタリアの盲目の歌手で、サラ・ブライトマンとのデュエット曲は1500万枚(一説には2000万枚とも)を超えるヒットを記録したそうだ。ヨーロッパはもちろん、アメリカや日本でも、クラシック界では異例の大ヒットを放っているシンガーである。アカデミー賞授賞式ではセリーヌ・ディオンとデュエットしている。
そのアンドレア・ボチェッリのアルバムを、かのデビッド・フォスターがプロデュースをする事になった。
ボーナストラックには発売する各国それぞれの女性歌手をデュエット相手に迎える、と言う企画付きである。
日本にも配給元であるユニバーサルミュージックに人選の打診があったそうだ。
ユニバーサルは当然自社所属の女性歌手の資料を送ったらしい。
ところが、デビッド・フォスターを満足させられる歌手はいなかった。
困ったユニバーサルは他社にも声をかけ、ボチェッリに見合う実力を持ち合わせている女性歌手をリストアップし直した。
その中で、フォスター氏、ボチェッリ氏から名誉ある指名を受けたのが、夏川りみだった。
ご本人は、ボチェッリもフォスターも知らず、「誰それ?」って感じだったらしい。
いかにも天真爛漫な夏川さんらしい。
レコーディングする曲はイタリア語だ。
さあ、イタリア語の個人レッスンが始まった。はたして。。。

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夏川りみ #1 (敬称略)2009.06.24

そもそもシンガーってのは(※最近はなぜかアーティストと呼ばれているが)ウタのうまいヤツの職業じゃないのかい?って思いながら、いつもキー合わせをする。そこでムチウチになりそうなほどうなずいている貴兄は同業の方ですな?
「キー合わせ」とは曲のキー(音程)をシンガーの声の音域に合わせる作業だ。ほとんどの場合、シンガーの音域の一番高い音に、メロディーの最高音を合わせる。ところが、この「一番高い音」がたいして高くない事が多い。ちゃんとした声の出し方を知らないから音域が狭いのだ。で、冒頭のグチが・・・。
ある時、「夏川りみ」のプロデューサーから曲の依頼を頂いた。音域は2オクターブ。これは日本ではめったにお目にかかれないほど広い。いさんで音域2オクターブぴったりの曲を書いた。ビクター青山スタジオでキー決めの日、プロデューサーから「どの辺りがいい?」と聞かれた。
一瞬意味が分からなかった。音域が2オクターブあるにもかかわらず、上下共に余裕があるのだ(普通ならパンパンなはずなのに)。軽いショック。
「夏川りみ」と言えば、紅白で7年連続歌い続けた国民的スタンダード「涙そうそう」のヒトである。アルバムは日本中の子守歌集である。子守歌なんか歌ってる場合ぢゃないんじゃない?!聞くところによれば、セリーヌ・ディオンが歌った、タイタニックのテーマを原キー(元の高さ)で歌えるらしい。なるほど、音域だけじゃなく、歌唱力も、軽くアメリカのR&Bシンガー並みだ。。。恐れ入りました。今までお仕事させて頂いたシンガーの中では断トツでナンバー・ワン・シンガーです。
その夏川さん、レコーディングの最中に別のレコーディングでロサンジェルスに行く事になった。スタッフが持っていたロスのプロデューサーのプロフィールにはそうそうたる名前が出ている。「誰のリスト?」と聞いたら、「デビッド・フォスターのです」と。えっ?ここでもまた軽いショック。さて夏川さんは・・・。
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