- NORIYUKI TANAKA 田中紀之
株式会社ディーツーコミュニケーションズ 事業開発本部 本部長
- NTT DoCoMo、電通を親会社に持つモバイル・マーケティング企業で、さまざまな事業開発のリーダーを務める。見識の広さ、発想の豊かさに加えて、組織を動かしてゆくうえでの行動力や決断力に優れている。世界の歴史やさまざまな文化、アートにも明るく、話題に事欠かない。
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「次世代マーケティングプラットフォーム」〜広告とマスメディアの地位を奪うもの2009.07.29
まだ、「失敗の本質」で書くべきことがありますが、ネットマーケティングのことも。
本書の主旨は、
ネットのマーケティング、広告では、自動最適化して効率をあげる新サービスを、ベンチャーがどんどん提供していく。
一社がすべてを支配することはないから、「悪の帝国=マイクロソフト」のような構造もない。
マイクロソフトみたいな大きな企業はインフラっぽいことしかできないから、ベンチャーが提供する新しいサービス、産業をのせていくしかないよね、ということ。
初版2008年10月6日なので、変化が早いネットの世界では古くなったこともあります。
ネット広告の効果分企業のトップランナーであるOMNITUREは、「まだまだ製品をよくする段階」とインタビューに答えていましたが、09年1月末にWPPグループと資本提携しました。
しかし、そんなことは、本書の価値をさげません。
「広告の周縁が終焉を加速する」は本の帯。
年をとっても、ダジャレだけは言うまいと誓っているのですが、本質を突いています。
新しい「周縁」のマーケティング・サービスとして、クラウド・サービスのお手本「salesforce.com」、全世界のモバイルADネットワーク「admob」などが紹介されていきます。
チョイスもよいし、インタビューもツボするどく、おもしろいです。
しかし、本当に読むべきは「Chapter1 広告からテクノロジーへ」。
急速な技術革新に見舞われた業界に通じる法則がある、という分析。
1)変化は周縁から起こる
2)過渡期には、新旧のサービスの併存する
3)旧サービスは、新サービスの欠点をあげつらうが、どんどん形成は逆転する
4)周縁部分は急速に拡大し、コア部分(旧のこと)はゆっくりと縮小する
4マス広告、ネット広告の新旧プレーヤー間で今起きている「グランズウェル(大きな波)」が、整理して理解できます。前著「次世代広告テクノロジー」とあわせて読むと、より構造的に理解が進むと思います。
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株式会社ディーツーコミュニケーションズ 事業開発本部 本部長
「失敗の本質」(2)〜劣勢な状況を逆転する、決戦兵器思想2009.07.23
「失敗の本質」でとりあげられる6つの戦争(ケース)で、繰り返される指摘が「狭くて進化の戦略オプション」。
かんたんにいうと、バカのひとつおぼえ。
マーケティングでいうと「成功体験の罠」です。
劇的にうまくいった戦略、コンセプトがあると、環境が変化してもそれらを捨てることができない。
海軍の戦略発想は、1905年の日本海海戦で大勝して以後、大艦巨砲主義、艦隊決戦主義が、陸軍は日露戦争での勝利によって白兵銃剣主義が唯一の戦略オプションに。
加えて、更に悪いのが「アンバランスな戦闘技術体系」。
戦艦大和は巨砲をもっていましたが、 遠距離方砲爆に必要なレーダーの性能が悪く、航空攻撃への防御も弱く、もてる力を出し切れずに海底に没しました。
零戦も、航続距離、スピードともに世界最高水準でしたが、軽量な超々ジュラルミンを使用したため、大量消耗に見合う大量生産が確立できなかった。
また、攻撃力を追求して防御力犠牲にしたため、熟練パイロットを多く失いました。
映画とかドラマとかでよくでてくるから「ばかなことしたよなあ」というのはかんたん。
でも、日本人の心の底には、「狭くて進化の戦略オプション」と「アンバランスな戦闘技術体系」が刷り込まれています。
すこしかっこよく言うと「劣勢な状況を逆転する、決戦兵器思想」です。
宇宙戦艦ヤマトは人類が滅ぼうとするとき、単独でガミラス帝国に立ち向かいました。
負けそうになると、いつも最後は波動砲で一発逆転。
根強い人気の「エヴァンゲリオン」。
EVAの正式名称を知っているでしょうか?「人型決戦兵器 エヴァンゲリオン」。
通常兵器ではまったく使徒に歯が立たず、NERVに侵入されるとセカンドインパクトが起きて人類は滅ぶ。EVAだけが頼み。
ガンダム・ファーストでは、劣勢だった連邦が、ホワイトベースとアムロの活躍でなんとか勝ち抜く。アムロはニュータイプで、木馬は新造戦艦、ガンダムはザクがまったく歯が立たない次世代モビルスーツ。
事業でも手詰まりなときほど、今ある資源とブランドで「とにかく、やってみよう!これしかないんだ!」となりがち。
意志決定者は、やるなら「失敗したときのやめ方」もちゃんと考えておかないと。
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「失敗の本質」(1)〜目的と目標2009.07.10
モバイルマーケティングの会社で、新規事業開発の責任者をしています。
仕事というだけでなく、もともと戦略やマーケティングの本が好きです。
「失敗の本質」は、戦略テキストの定番。「社長がすすめる本3冊」のようなビジネス誌の特集で、常に取り上げられています。
1984年に出版された本書が色褪せないのは、第二次世界大戦以前の、戦略遂行と実行組織における「日本人の癖、気質」」が、現在の企業活動でも生き続けているからだと思います。
本書では、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦と6つのケースで、「戦い方」「敗け方」の組織論的究明を行っています。
「敗け方」の組織論的究明というのは、少し変に感じるかもしれません。
「目的」=戦う理由、「目標」=目的が達成された状態です。
目的と目標が明確であれば、「何をもって成功とするか」が明確であり、「何をもって失敗とするか」も明確になります。
「目標に到達できなければ、失敗を認めて戦争をやめる」ことがしやすくなります。
日本は、これができませんでした。
米国に対して戦争を始める段階で、どのように終戦(講和もしくは占領)するかというプランをもたず開戦し、「必勝の信念」にもとづいて戦い続けました。
どこまで敗けたらやめるというプランがなかったために、原爆を2発落とされるまで戦ってしまった。
本書では、「目的」のあいまいな作戦は必ず失敗すると、繰り返し述べています。
P.269にある「目的はパリ、目標はフランス軍」の引用は、この関係を表しています。
ドイツ軍はパリを占領することが目的で、障害となるフランス軍を撃破するという目標です。
なんか当たり前じゃん、って気もします。
でも、自分の仕事する立場ではどうでしょう。
「社長が言ったから」というだけのプロジェクトはないでしょうか?
うまくいってないのにやめられない、言い出せないとか。
会社の上司、部下にきいてみてください。「このプロジェクトの目的は?目標は?」
端的に答えられないときは、かならず失敗です。
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NORIYUKI TANAKA/田中紀之
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