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TSUGIO NISHIMURA 西村次雄
フォトグラファー
1973年、九州産業大学芸術学部写真科卒。同年渡米。1979年、「STUDIO BB」を設立。デジタルの可能性にいち早く気づき、雑誌・広告を中心に一眼レフカメラを駆使して活躍中の”IT写真家”である。建築物、料理、人物、商品、そして動物・植物・昆虫と被写体の幅も極めて広い。

カラスウリとエビガラスズメ2012 / 08 / 17

お盆が終わっても、茹だるような残暑の黄昏時。
白いドレスに盛装して怪しく闇に咲き乱れるカラスウリ。
レースに振りかけたパフィームを夜風に乗せて流すのだ。
闇に怪しく光る白いドレスと甘いフレグランスに誘われて、どこからともなくエビガラスズメがあらわれた。
軽いステップでホバリングを繰り返し、ご自慢の長〜い口吻で、カラスウリの甘いカクテルを次々に飲み干して行く。
それは、今宵カラスウリがエビガラスズメに、未来を託すために仕組んだ高等戦略が成就した瞬間でもあるのだ。

カラスウリ(烏瓜)ウリ科、つる性の多年草。
日没後19時頃に直径約7〜10㎝のレース状に広がり10分ほどで開花する。
午前2時を回ると次第にしぼみはじめ、翌朝には開花の姿を見る事は出来ない(キカラスウリは異なる)。
原産地は中国、日本。薮などにつるを絡ませて成長する。
カラスウリは雌雄異株で、花期は7〜9月。カラスウリの花筒は非常に長く、底に蜜をためるので、この写真に見るように、長い口吻を持ったスズメガでなければ花の奥の蜜を吸う事ができない。
また、夜間に目立つこの花は夜行性のガを呼び寄せるための誘導灯のようなもので、白いレースは他の虫達を止まらせない金網ブロックの役割をかねているとおもわれる。
しかるに、夜間ホバリングの出来るスズメガに特定した花粉媒介の高等戦略をとったとおもわれる。
このように特定の花と昆虫が依存し合う現象を「共進化」と呼ぶ。

写真上:雌花
写真下:雄花とエビガラスズメ

エビガラスズメ(蝦殻天蛾、学名: Agrius convolvuli)
チョウ目、スズメガ科。
翅の開張90~100mm。アメリカ大陸を除き、全世界に分布する。
太陽が沈むと花蜜を求めて飛び、長〜い口吻を伸ばして蜜を吸う。
昼に飛ぶ蝶と真逆の生態の夜行性のガである。
幼虫の食草はヒルガオ、アサガオ、サツマイモ、マメ科などのつる性植物。
日本では蛹で越冬して年二回、5〜6月と7〜9月出現する。

この時の撮影技法(三点が揃えば超ウルトラ級の撮影難度)
必須の機材はストロボとLEDライト。
「闇の中での撮影現場」「マクロレンズで捕らえる小さい被写体」「素早くチョコマカ動く被写体」この三点が揃えば超ウルトラ級の撮影難度です。
昼間のオオスカシバの吸蜜シーンの撮影もそれほど簡単ではないが、闇の中で素早く移動するエビガラスズメは小さくてピント合わせが非常に難しい。
それに、ライト光に敏感なエビガラスズメの吸蜜シーンのシャッターチャンスは運がよくて一回のみである。
さて、この難しいシーンを画にするにはどうするか?
何事にも言えますが、シミュレーション撮影を何回もトライする事につきるようです。
まず、撮りたい画の距離を想定し、LEDライトを左手に持ちターゲットのカラスウリの花をファインダーの真ん中におさめる練習を行う。
暗がりで素早く行えるようになったらしめたもの、半分は成功したようなものです。
あとは運を天にまかせてひたすら待つのみ。
いざ現れたら慌てず素早く間合いをつめ、思い描く画(長〜いストローが映る角度)を想像してカメラの角度を決め構える。
そして、もし貴方に運があればシャッターが押せるという塩梅です。ちなみに、今回は被写体との距離約30㎝、フルサイズ一眼レフカメラに60㎜マクロレンズ、この組み合わせは被写界深度も非常に浅く、F/14まで絞りこんでも約3㎝前後しかピントが合わないので「置きピン」での撮影は不可能です。
それに沢山のカラスウリの花の何処に現れるかを予測する事は不可能で三脚も役立たず。
合計この場所に3日間で5回ほど訪れましたが、4回はカメラの近くにも寄ってくれず・・・、あきらめかけた真夜中の2時30分頃やっと撮影に成功しました。
残念ながらこの時間帯は花のレースがしぼみ始めていたのがチョット残念。

カメラ設定
上下とも同じ:絞り値:F/14、シャッタースピード:1/125秒,ISO感度設定:200、露出モード:マニュアル、露出補正:±0、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード、ROW。

使用ソフト
Raw現像ソフト:Lightroom4、最終調整:PhotoshopCS5使用

使用機材

Nikon D800、AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED、 ニコンクローズアップスピードライトリモートキットR1, SB-R200用配光アダプター SW-11使用, LEDライト。上のみSPEEDOLIHT SB-600をバックライトとして使用

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TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家

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