なんでこんなところにスミレの花が咲いているのだろうか?と不思議に思った事はありませんか?
じつはそこにこそ、スミレの生き残り戦術が巧みに組み込まれた結果なのです。
それにしても、まだ色彩の乏しい時期にスミレの花を見つけると、なんだか得した気分になるから不思議だ。
もし、進化の過程で人間の体の奥底に虫達のような遺伝子がかすかにのこっていて花に反応するのだと仮定したらどうであろうか?
もし、そうだとしたならば花に癒されるのも、また花束を抱えた男を目にした瞬間、浮き足立つ女達がいるのも納得できるではないか。
タチツボスミレ(立坪菫)スミレ科スミレ属
スミレ科には23属約800種があるといわれています。
大半の属は木であり、約500種が木本。
草本を含む属は3属だけ。
日本にはスミレ属の多年草しか分布していない。
日本には60種が分布しており、細かく品種まで見ると220種があり、スミレの豊富な国でもある。
タチツボスミレは北海道から沖縄まで広く分布するスミレの代表格である。
(参照:山田孝彦著/スミレハンドブック)
ちなみに、スミレの語源は諸説あるが良く間違って言い伝えられる説、
「大工さんが木材に線をひく時に使う墨入れが花の形に似ているところからスミレと言われている」スミレ(菫)の名前は奈良時代以前に命名されたので、大工道具の墨入れは江戸時代のものであるから明らかな間違いである。
現在でも諸説は多く確固たる定説はないようです。
写真のスミレは京都の霊鑑寺近くの苔むした石垣に生えていたタチツボスミレです。
花言葉:「つつましい幸福」「誠実」
花期:3月上旬〜5月下旬
トビイロシワアリTetramorium tsushimaeEmery(フタフシアリ亜科シワアリ属)
分布:北海道、本州、四国、対馬、九州、屋久島、韓国、中国。
体長:2.5mm。本土で最も普通に見られる種のひとつ。草地、公園などの開けた環境に生息し、土中、石下、草本類の根元などに巣をつくる。雑食性であるが、種子も好んで集める。
(参照:寺山守解説/久保田敏写真 アリハンドブック)
写真は巣穴に種を運び込むシーン(アリがくわえている白い部分がエライオソーム:脂肪酸、アミノ酸、糖からなる科学物質)アリの好物。
トビイロシワアリ2.5mm。タチツボスミレの種2mm
スミレの不思議3
その1
なぜ春にだけ花を咲かせるのか?
春の花の代名詞であるスミレの花が咲くのは3月上旬〜5月下旬頃。
まだ他の競争相手が少ないこの時期にいち早く花を咲かせ、太陽光エネルギーを存分に取り入れ花に蜜をため虫達を呼び寄せ他の個体と受粉します。
この時期に他の個体との遺伝子交換を行い病気などに強い遺伝子の種を作ることが出来ということになります。
その2
春を過ぎると花を咲かせないのになぜ次々と蕾が実るのか?
おかしいことに、夏に花が咲いてるところは見た覚えがないのになぜ蕾が実るのか?
じつはスミレは閉鎖花(自家受粉する)だからです。
春を過ぎると他の競争相手がどんどん大きくなり、太陽光エネルギーを遮り光が届きにくくなります。
また、花を咲かせても目立ちにくい為、虫達にアピールできなくなります。
そこで、スミレは考えました。
だったら花を咲かせるエネルギーも虫達に見つけてもらえないのなら無駄になる。
ならば、蕾だけを実らせ自家受粉し、11月頃まで次々に実らせて、生き残るという選択をしました。
たくさんの蕾を実らせるのはそれだけ生育率が低いためだと考えられています。
その3
どうしてこんな場所にスミレは咲いているのか?
たくさんの種を遠くに飛ばすには自力だけでは不可能で、スミレはアリの好物エライオソームという物質を種に付けスミレの回り約3m四方に種をはじき飛ばします。
その種を見つけたアリは好物のエライオソームだけが欲しいのですが容易に切り離せない強さで種とセット(抱き合わせ)なっているので仕方なく種ごと巣に運び込みます。
巣の中で無事切り離された種の部分はアリにとってもはや邪魔物で巣の外に捨てられます。
その時、捨てられた強運の種が競争相手の少ない早春に、いの一番で花を咲かせるというわけです。
この時の撮影技法(環境とタイミング)
植物や鳥、虫の活動のタイミングはお互いに密接に重なり合っており旬の時期を逃すと1年待たなければならない。
今回は撮りたい画のタイミングが重要で絶えず観察を続ける事が肝心でした。
スミレの花と、種の実りのタイミング、そこにアリが重なるのでまったく気が抜けない。
スミレの画は苔むす石垣などに生えている環境が条件。
4月:タイミングよく京都で理想の苔むす石垣に生えている生き生きとしたタチスボスミレを見つける。
5月:アリ撮影のキーポイント3点。
その1、アリと種の大きさのバランス。「タチツボスミレの種2mm」と「アリ2.5mm」が最適のトビイロシワアリの巣を見つける。
その2、巣穴に運び込むシーン。
その3、巣穴に運び入れる時に「種」と「エライオソーム」がしっかりと解る画でなければ撮る意味がないと考える。
それらが、絶妙なタイミングで重なるのをひたすら待ち受け撮影しました。
カメラ設定
上:絞り値:F/14、シャッタースピード:1/125秒,ISO感度設定:400、露出モード:マニュアル、露出補正:+0.7、ホワイトバランス:オート、測光モード:平均測光、ピクチャースタイル:スタンダード、焦点距離65mm
下:絞り値:F/7,1、シャッタースピード:1/80秒,ISO感度設定:800、露出モード:マニュアル、露出補正:−1、ホワイトバランス:オート、測光モード:平均測光、ピクチャースタイル:スタンダード、焦点距離105mm
使用ソフト
Raw現像ソフト:Lightroom4、最終調整PhotoshopCS5使用
使用機材
上:Canon 5DM2, MP-E65mm f/2.8 1-5x 、マクロリングライトMR-14EX
下:Nikon D800、AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G
POSTED BY:
TSUGIO NISHIMURA/西村次雄
写真家
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