YOUCHOOSE

about

森高千里「雨」 ―シングルを逃した作曲家―2010.01.18

昨年末、森高千里さんがテレビで「雨」を歌っていた。
某男性シンガーのデュエット・アルバムに収録されたとの事・・・。

アルバムのレコーディングと並行して、シングル予定の曲の詞を、本人が悪戦苦闘して書いていた。
作詞は歌手本人が手がける事になっているために、レコーディングのたびに(特にアルバム)、多大な負担がかかる。
ファイル名「90-14」のこの曲は、曲調に合う内容の詞がなかなか出来ず、すでに3〜4編の詞が没になっていた。

並行して、ディレクターS氏がアルバム収録用に「弾き語りでいいから、適当にアレンジしておいて」と、M君のデモ曲の入ったカセット・テープをウチに置いて行った。
聴いてみると、フォークっぽくはあるが、哀愁のあるバラードで“佳曲”だった。
「これは料理次第で良い物になる」という確信めいたものを感じ、アレンジにとりかかった。
後日「この曲は、絶対にいいですよ」とアレンジ・デモをスタジオで披露した。
一同大変気に入り、その場のディスカッションで間奏を付ける事になった。映画のサウンドトラックの様なストリングスが浮かび、その場で間奏を仕上げた。詞もスムーズに付いた。
前述した、詞で難航していた曲よりスムーズに仕上がった分、勢いがあり、シングルに向いている気がして、私の進言で(ディレクターS氏も同感だったらしく)、このバラード曲をシングルに差し替える事になった。

ちなみに、これによりシングルカットを逃した曲は、私の曲で、「あるOLの青春」としてアルバム曲に「格下げ」になった(笑)。
シングルを1曲逃したのは大変残念だったが、後に歌い継がれる名曲「雨」を世に出せたのは、サウンド・プロデューサー冥利につきる。

「あるOLの青春」用に作られ、没になった詞の中に、ビートルズの「When I’m Sixty-Four」のようなストーリーの物があった。これが後に日の目を見る事になる・・・。(続く)

POSTED BY:
hideosaito_image

HIDEO SAITO/斎藤英夫
音楽プロデューサー・作曲家・編曲家・ミュージシャン

待つのはつらいこと2010.01.06

新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

「トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズが来日しますように。。。。」
「初詣と言えばまず願い事は健康であることではないですか?」
「男として健康を犠牲にしても願わねばならんことがあるんじゃ」

一行目と三行目は私。二行目は、業界のとある若者A君。

高校時代からずっと買い続けているアーティストである
トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズでありますが、
本国でのヒットやその安定したセールスとは裏腹に日本ではどうも評価がイマイチ、
というか無名のようですらありますなぁ。
しかし、私の周りにいる仕事仲間などには非常にたくさんのファンがいるのも事実です。

1952年生まれということなので、今年58歳。
(どうもこのブログで紹介する人は総じて60歳前後がなぜか多い。
これのは私の年齢によるところもあると思うが、今後はもう少し考えるべきか。。)

しかしこのバンドはホントいいメンバーです。無類のセッション好きのベルモント・テンチ(Key)。
ミック・ジャガーのソロ・アルバムでのピアノプレイなどは私の好きな演奏のひとつ。
ロックを知り尽くした「ええ感じ」のフレーズやバッキングを随所にちりばめることが出来る男。。
なんせオルガンがコロコロいうてます。

そしてマイケル・キャンベル(G)。
この寡黙な男こそが、ハートブレイカーズのキーマンと言えるでしょう。
決して弾きすぎることなく、その楽曲を最大限生かすためには、
どのようなフレーズや音がいいのか、
ということを徹底して考えているギタリストと言えます。
テクニックを見せびらかせるタイプではなく、大人しい仕事人、といった感じ。
この人のギターの音色やフレーズが渋くて大好きな私。

これらのバックが作り出すサウンドに枯れたトム・ぺティの声が乗るとそこはもうロックそのもの。
またトム・ぺティもギターを弾きますが、そのプレイも非常にエモーショナルです。
例えていうならジョン・レノンのギターソロがジョージよりいい時がある、といった風情。
(わかります?)

幾度となく彼らは外部のプロデューサーを招き、その度にサウンドを大きく変化させてきた。
デイヴ・スチュアートがプロデュースした『サザン・アクセント』では、ある種サイケに。
そして、『ラーニング・トゥ・フライ』ではジェフ・リンに。
ELO臭が漂うこのアルバムはソロアルバムのようにすら聴こえる味付け
(これは賛否両論あると思いますが。。)。

ひとつのことを続けて行きながら、時代にあった音作りをする。
それは時代に迎合するためではなく、その時代に柔軟に調和する、ということであるはず。
この手のバンドのビデオ・クリップは演奏シーンをストレートに映すものが多かったが、
この時期は彼らもMTVを意識して結構ちゃあんとクリップを作っていた。
マイク・キャンベルはちょっといやだったかもしれないが。。。

それにしてもなぜに彼らは日本に来ないんだぁ〜?。
「The waiting is the hardest part」って歌ってるやん。
そんなわけで今年も私は彼らの来日を待つのである。

POSTED BY:
oki_image

HIDESHI OKI/沖秀史
株式会社USEN 音楽番組制作部長