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KEISUKE KAWANISHI 河西啓介
株式会社Voice Publication代表取締役「MOTO NAVI」「BICYCLE NAVI」編集長
自動車のスクープ雑誌からモータージャーナリストの道を歩みはじめ、「CAR GRAPHIC」で有名な出版社・二玄社へ。自動車雑誌「NAVI」編集者を経て、現在はオートバイ&ファッション誌「MOTO NAVI」、自転車&ファッション誌「BICYCLE NAVI」の編集長兼「DYNAMITE POPS」のリードヴォーカリスト。

オートバイが夢見た時代2010 / 11 / 02

「55mph」

 20年ほど前、『55mph』というオートバイ雑誌があったのを知っているだろうか?
雑誌といっても書店に並ぶ本ではなく、ヤマハが申込者に有償配布していたPR誌だ。
1981年からちょうど10年間、年1冊のペースで発行されていた。

 そういう僕も、じつは刊行されていた当時読んだことがなかった。
知り合いが綺麗に保存していたバックナンバーを借りて、あらためて目を通したのはわりと最近のことだ。

 各号の巻頭記事は、アメリカ、イタリア、スペイン、オーストラリア、ニュージーランドといった海外のロケ取材。
その他の記事もファッション、ルポルタージュ、小説、モータースポーツ関連と多岐にわたり、執筆陣は片岡義男、松山猛、山川健一、景山民夫、柏秀樹(敬称略)といった一流の作家、ジャーナリストがずらりと顔を揃えている。

加えて写真がまた素晴らしい。
メインフォトグラファーを務めているのは当時、ファッション界で活躍していた半田也寸志、森川昇といった写真家で、彼らが撮り下ろす“オートバイのある風景”は、いま見てもとても新鮮だ。

 エディトリアルデザインの世界では有名な、ダイアモンドヘッズ鈴木氏が手がけたページレイアウトにも唸ってしまう。
ついつい狭苦しい誌面(オタク的、と言おうか)になりがちな専門誌とは対照的に、写真を大胆に配したそのレイアウトは、アメリカのフリーウェイの制限速度に由来するという『55mph』というタイトル通りの大陸的な空気感に包まれていて、誌面から気持ちのいい風が吹いてくるようだ。
初めて読んだ瞬間から、たちまちその世界に引きこまれてしまう。

 そして、表紙に“MOTORCYCLE UTOPIA”というキャッチコピーを謳うこの雑誌を、ヤマハという二輪メーカーが制作していたということにあらためて驚きを感じずにいられない。
自社製品のPRという枠を超えて、オートバイという乗り物の素晴らしさを伝えるために、これだけの予算や手間をかけて誌面を作っていたその見識に対してである。

 思えば80年代とはそういう時代だったのかもしれない。
雑誌に限らず音楽やアート、あらゆるポップカルチャーのジャンルにおいて、今も色褪せないスケールの大きな作品が数多く生まれた。
そしてオートバイという乗り物がキラキラと輝いていたのもその10年間だった。

 あの時代の空気を吸って育った僕らだからこそ、知っているオートバイへの憧れや想いがある。時代を超えてそれを伝えることが、きっと雑誌にはできるはずだと思う。

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KEISUKE KAWANISHI/河西啓介
株式会社ボイス・パブリケーション・「MOTO NAVI」「BICYCLE NAVI」編集長

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驚きました。今あの55mphを評価してくださる方がいらっしゃるなんて。
私、6号から9号までエディターとして参加しておりました。
当時は発行元であった広告代理店の社員コピーライターでした。
社内の配置転換で泣く泣く55離れたこと今でも残念でたまりません。
50歳を超えた今、自身で会社を興し、現役ライター&ライダーとしてがんばっています。
とても励みになりました。
本当にありがとうございます。

コメントありがとうございます!
いまも「55mph」を覚えていて「あの本はすごかった、よかった」と言う人は結構いますよ。
僕も今回、原稿を書くにあたって知り合いが全号キレイに保存してあった55mphを借りました。
そうやって「残して」いけることが、じつは紙媒体の素晴らしさなのかなと思います。
最近、まったくオートバイとは関係ないラインから55mphのアートディレクターをされていた方(DHの)を紹介されたり、
不思議な縁を感じています。
僕ものちのちまで人の心に残る雑誌を作りたいと思います!

ダイヤモンドヘッズの仕事に憧れながら、私もパパスブックのデザインをやっていました。
当時はこの「55mph」の編集スタイルやデザインが我々にとってのバイブルでした。
写真のトリミング、ページデザイン、書体の選択、行間、字間、すべてにおいて完成度が高く
未だに色あせることのないエディトリアルだと思います。
偶然にもこのページを発見することができ、感謝しております。
本当に有難うございました。

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